COVIDが脳にダメージを与える仕組み

2021年7月15日『ネーチャー』
「COVIDが脳にダメージを与える仕組み」
How COVID-19 can damage the brain

以下、引用。

現在、複数の研究から、SARS-CoV-2はアストロサイトに感染できることが示唆されている。アストロサイトは脳に豊富に存在している細胞で、脳内で多くの機能を担っている。カリフォルニア大学サンフランシスコ校(米国)の神経内科医Arnold Kriegsteinは、「アストロサイトはニューロンに栄養を供給してその機能を維持するなど非常に多くの役割を果たしており、脳が正常に機能するのを助けている」と言う。

Kriegsteinらは2021年1月、SARS-CoV-2が他の脳細胞よりもアストロサイトに選択的に感染することをプレプリント論文で報告した3。彼らは脳オルガノイド(実験室で幹細胞から成長させたミニチュアの脳様構造体)をSARS-CoV-2に曝露すると、SARS-CoV-2は存在する全ての細胞の中でほぼアストロサイトだけに感染したという。

Kriegsteinは、アストロサイトが感染することでCOVID-19に関連する神経学的症状の中でも特に倦怠感、うつ、ブレインフォグ(脳の霧)と呼ばれる混乱や物忘れを含む症状を説明できる可能性があると主張する。「こうした種類の症状はニューロンのダメージではなく、何らかの機能障害を反映している可能性がある。これがアストロサイトの脆弱性と一致しているのではないかと考えている」。

SARSCoV-2は脳への血流を減少させることで脳に影響を与える可能性があるという証拠も増えている。血流の減少によりニューロンの機能が損なわれ、最終的にはニューロンが死んでしまうこともある。

周皮細胞は全身の毛細血管の周囲に存在する細胞であり、脳にも存在する。SARS-CoV-2は、脳オルガノイドの周皮細胞様細胞に感染する可能性があることが2021年2月のプレプリント論文で報告された5。

2021年4月には、ロンドン大学ユニバーシティカレッジ(英国)の神経科学者David Attwellの研究チームがSARS-CoV-2が周皮細胞の挙動に影響を与える可能性があるという証拠をプレプリント論文で発表した6。

彼らは、ハムスターの脳の切片においてSARS-CoV-2が周皮細胞の受容体の機能を阻害し、脳組織の毛細血管を収縮させることを観察した。「大きな影響を与えることが分かった」とAttwellは言う。

「一部の人々では、感染に応答した免疫系が自分の組織を攻撃する自己抗体を意図せずに作ってしまう場合がある。それがこの15年で分かってきた」と、ドイツ神経変性疾患センター(ベルリン)の神経免疫学者Harald Prüssは言う。

例えば視神経脊髄炎は、自己抗体が視神経や中枢神経系を傷害し、患者に視力喪失や四肢の虚弱といった症状を引き起こす長期的な疾患である。Prüssは、自己抗体が血液脳関門を通過して記憶障害や精神疾患などの神経障害に寄与している可能性を示した論文を集め、総説として2021年5月に発表した7。

血液脳関門を通過する経路はCOVID19でも働いている可能性がある。

アストロサイト、周皮細胞、自己抗体という3つの経路は相互に排他的なものではない。そしておそらく、これら以外の経路も存在するだろう。COVID-19患者が神経学的症状を経験する背景には、さまざまな要因があると見られる。

アストロサイト、周皮細胞、自己抗体です。

《周皮細胞》
SARS-CoV-2受容体であるACE2は、周皮細胞、つまり脳、心臓、腎臓の血流を調節する毛細血管を包む収縮性細胞に見られます。ACE2は血管収縮性アンジオテンシンIIを血管拡張性アンジオテンシンに変換します。

ロング・コビットの研究を読んでいくと、『ネーチャー』や『サイエンス』『BMJ英国医師会雑誌』や『JAMAアメリカ医師会雑誌』の論文著者である超一流の研究者たちが、いちいちロング・コビットの病態に驚愕している実態が判明してきます。

これは西洋医学の最先端であり、しかもアストロサイトやミクログリア細胞による神経炎症、慢性疲労症候群、迷走神経など、鍼の治効機序のホットスポットと完全に重なります。

鍼の治効機序のパズルを解くためには、ロング・コビットの謎を解き明かしていく過程で多くのパズルのピースが手に入ると予測できます。

今後の世界で最も大量の患者の発生が予想される難病であり、もしこの領域で患者さんに貢献することが出来て、患者さんの支持を得ることが出来るなら、鍼灸への世論は変わると思います。

東洋医学の歴史の視点からも、そうなのです。
後漢末期、三国志時代の初期の張仲景は、傷寒の流行により、『素問・熱論』をベースに六経弁証という新理論を創案しました。

ヨーロッパが新大陸とつながり、梅毒をはじめとする疫病が流行した明代に呉又可は『温疫論』を著し、清代に葉天士は衛気営血弁証を創案しました。

現在のロング・コビットは、味覚障害・嗅覚障害だけでも六経弁証や衛気営血弁証の理論で説明できません。

「臓腑弁証ならロング・コビットをどのように分析出来るのか」という簡単な問いを立てます。

呼吸が浅く、倦怠感があるから肺なのか、頻脈や心筋炎があるから心なのか、消化器症状があるから脾胃なのか。

また、発汗障害やコビットつま先を考えたときに瘀血の要素だけではないし、未解明の要素が多過ぎます。

つまり、新たな分析方法と新たな治療戦略が必要であり、それは西洋医学でも東洋医学でも同じで、要は患者さんを改善できれば何でも良いわけです。
現代に生きる東洋医学者は、歴史から問いかけられていると思います。

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