天気痛と風寒湿

2022年2月1日『時事通信(メディカル・トリビューン)』
『”気象感受性”の慢性疼痛患者は2.3~11%』
https://medical.jiji.com/news/50588

以下、引用。

英・University of ManchesterのBelay B. Yimer氏らは、英国の慢性疼痛患者を対象に、スマートフォンのアプリを用いた追跡調査の研究データを基に、毎日の疼痛の重症度と気温、気圧、湿度、風速との関連について検討。これらの気象パラメータと関連した疼痛の悪化が認められた患者の割合は2.3~11%で、一部のサブグループにおいてのみ気象感受性が認められたとする解析結果をPain Rep(2022; 7: e963)に報告した。

Yimer氏らは、2016年1月20日~17年4月20日に英国の慢性疼痛患者約1万3,000例を対象に、スマートフォンのアプリを用いて毎日の痛みの症状と気象の関連について検討する目的で大規模研究Cloudy with a Chance of Painを実施。湿度や風速の上昇、気圧の低下が疼痛の悪化に関連していたとする解析結果を報告している(NPJ Digit Med 2019; 2: 105)。同氏らは今回、「研究参加者の一部のサブグループにおいてのみ気象と疼痛の重症度に関連が見られる」との仮説を立て、検証した。

その結果、気温に対する感受性を有する割合は11%(高値4.7%、低値6.3%)、相対湿度に対する感受性を有する割合は3.5%(同2.9%、0.6%)、気圧に対する感受性を有する割合は2.3%(同0.7%、1.6%)、風速に対する感受性を有する割合は2.8%(同2.3%、0.5%)で、気象感受性を有するのは慢性疼痛患者の一部であることが示された。

例えば、気温は疼痛の悪化と低気温が関連していた割合(6.3%)と、高気温が関連していた割合(4.7%)は同程度であり、全体的な気温による疼痛レベルへの影響は軽度であった。

痛みの発生を事前に予測するための”天気痛予報”の開発など、今後、気象と疼痛の関連の知見を活用する場合には、予測の個別化が必要となることも示されたと付言している。

「予測の個別化が必要」というのは重要です。
東洋医学の考え方では、風によって悪化する疼痛、寒によって悪化する疼痛、湿によって悪化する疼痛、熱によって悪化する疼痛があるからです。

2022年1月12日マンチェスター大学『ペイン・リポーツ』
「慢性疼痛患者の天候と疼痛重症度との関連における不均一性:マルチレベル回帰ベイジアン・アナリシス」
Heterogeneity in the association between weather and pain severity among patients with chronic pain: a Bayesian multilevel regression analysis
Belay B. Yimer et al.
Pain Rep. 2022 Jan-Feb; 7(1): e963.
Published online 2022 Jan 12.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/labs/pmc/articles/PMC8759613/
(全文オープンアクセス)

この2022年に発表されたイギリス・マンチェスター大学の大規模「天気痛」ビッグデータ研究であるCloudy with a Chance of Pain以前では、英語圏の医学では「天気によって痛みが悪化する」という天気痛の存在自体を認めていませんでした。わたしが1990年代に英語圏の医学の世界を観察していて、最初に驚愕した事実です。

2020年4月疼痛の専門雑誌『ペイン』
イギリス・マンチェスター大学
「慢性筋骨格疼痛の天気との関連は?レビュー」
Are weather conditions associated with chronic musculoskeletal pain? Review of results and methodologies
Beukenhorst, Anna et al.
April 2020 – Volume 161 – Issue 4 – p 668-683
https://journals.lww.com/…/are_weather_conditions_associate…

このレビューは、天気と痛みの関係を特徴づけるのが難しいことを示しています。天候と痛みの間に関連性が存在することについてのコンセンサスが欠如しており、天候が関節炎の痛みにどのように影響するかについての理論が欠如しています。

2022年1月まで英語圏の医学では、天気痛の存在を認めていませんでした。戦前のドイツ語圏(ドイツ・オーストリア・スイス)の医学では、天気痛を認めています。

ドイツでは、戦前から生気象学という学問が存在します。ドイツ語にはフェーン病という単語があるほどです。フェーン現象が起きて熱風が吹く際にドイツ気象庁が1952年から医学気象予報を出して、頭痛やイライラが起こりやすくなると警告します。ドイツの高速道路アウトバーンは速度制限が無いので有名ですが、フェーン現象の熱い風が吹くときだけは速度制限の指示が出ます。フェーン現象の際は交通事故が起こりやすくなるからです。

戦前のドイツ医学やドイツ心理学は人間の本質を理解しようとしていました。戦後のアメリカ心理学を創り上げたのは、調べてみると、ほとんどがドイツ語圏のユダヤ人などでした。彼らドイツ系ユダヤ人心理学者たちががナチスに追われてアメリカに亡命したためにアメリカ心理学は世界一になりました。ドイツ医学はヒステリー研究から潜在意識の大陸を発見し、クルト・レヴィンらドイツ・フランクフルト学派が集団力学を創りました。そして戦前の日本医学はドイツ医学から影響を受けました。日本の医学者たちは東洋医学から影響を受け、更年期女性の治療から自律神経失調症の概念を創り、心療内科を創りました。

英語圏の医学は、天気痛もヒステリーも自律神経失調症も認めていません。臨床家として致命的だと思います。

ちなみにドイツ語には「天気に過敏(WETTER­EMP­FIND­LICHKEIT)」という単語まであります。「線維筋痛症患者は天気に過敏であり、寒くて湿気が強い天気や北西からの風が症状を悪化させる」とドイツ医学者が記述しています。

2015年くらいから変化があらわれました。

2015年12月日本・東海大学
「気圧関連の片頭痛の調査」
Examination of fluctuations in atmospheric pressure related to migraine
Hirohisa Okuma et al.
Springerplus. 2015; 4: 790.
Published online 2015 Dec 18.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/labs/pmc/articles/PMC4684554/

2019年1月25日愛知医科大学・佐藤純
「気圧を下げるとマウスの上前庭神経核にニューロンの活性化が誘発される」
Lowering barometric pressure induces neuronal activation in the superior vestibular nucleus in mice
Jun Sato et al.
PLoS One. 2019 Jan 25;14(1):e0211297.
https://journals.plos.org/plosone/article…

 

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