代替医療は喘息の助けになるか

2022年3月12日 アメリカの週刊誌『タイム』
「代替医療は喘息の人の助けになるか」
Can Alternative Medicine Help People With Asthma?

以下、引用。

コロンビア大学のモーリーン・ジョージは、補完代替医療における喘息のセルフ・マネージメントの使用について調査をおこなった。

ジョージの研究は喘息患者の84パーセントが伝統医学・補完代替医療を好んでいることを発見した。

2013年1月10日 モーリーン・ジョージ
「喘息セルフマネージメントにおける補完代替医療のシステマティックレビュー」
A systematic review of complementary and alternative medicine for asthma self-management
Maureen George
Nurs Clin North Am . 2013 Mar;48(1):53-149.

以下、『タイム』より引用。

ヨガ、マインドフルネス、呼吸法などの心身療法は人気のある補完療法である。

ヨガ・マインドフルネス・マッサージ、呼吸法などの心身療法は、QOL生活の質を改善するかもしれないが、エビデンスは、重症の喘息については、それらの治療法が臨床的に意味のある改善をもたらすとはしていない。「もしエビデンスをみたら、説得力のある効果はまったく無いという結果が何度も出ている」とイギリス・エクスター大学の名誉教授であるエツアート・エルンストは述べる。

エルンストは、いくつかの治療法が重症喘息の人にとっても非間接的な効果を提供することを認めているが、同時にリスクも考慮している。

「喘息は死亡の危険性があるため、リアルな危険がある」とエルンストは言う。

それでは、研究は正確には何を述べているのか。以下は、最も人気のある補完医療アプローチである。

【マインドフルネス・ストレス低減法】
医学雑誌『胸郭(Thorax)』の2012年の研究によると、マサチューセッツ大学医学部の研究者は、重症喘息患者を含む喘息患者のマインドフルネス・ストレス低減法の利点を調べた。
彼らは、8週間のマインドフルネストレーニングは肺機能の改善をもたらさなかったが、持続的で臨床的に重要な生活の質の改善をもたらしたことを発見した。これらには活動制限と喘息症状の軽減が含まれていた。これまでの研究と同等の改善が吸入コルチコステロイドに関連していた。

【呼吸トレーニング】
最も人気があり、実験されている呼吸ワークはブティコと呼ばれる。それは1950年代のソ連の医師の名前によるものである。「(ブティコには)確かに有効性がある証拠がいくつかある」とコロンビア大学のモーリーン・ジョージは言う。「呼吸トレーニングは喘息の補助療法として有望である。また、呼吸器内科におけるブテイコの2008年の研究を含むいくつかの臨床試験では、副作用の証拠は見つからなかった。

ブティコは、ソ連(ウクライナ)の医師、コンスタンティン・ブティコがヨガの呼吸法をベースに開発しました。

2020年にコクランシステマティックレビューで呼吸運動が生活の質、過呼吸症状、および肺機能にプラスの影響を与える可能性があることがわかりました。

2020年3月 『コクランシステマティックレビュー』
「成人の呼吸エクササイズ」
Breathing exercises for adults with asthma
Thayla A Santino
Cochrane Database Syst Rev. 2020 Mar 25;3(3):CD001277.

以下、『タイム』より引用。

医学雑誌『メディスン』の2020年の論文によると、いくつかのランダム化臨床試験では鍼治療が免疫系の活動を低下させ、気管支筋緊張を改善することにより喘息患者の症状を緩和し、生活の質を改善する可能性があることがわかった。鍼治療も非常に安全なようだ。しかし、鍼治療のいくつかの試験では、喘息の人には何のメリットもない。

2020年1月
「喘息の鍼治療:システマティックレビューとメタ・アナリシスのプロトコル」
Acupuncture on treating asthma
A protocol for systematic review and meta analysis
Chen, Yan-Ming et al.
Medicine: January 2020 – Volume 99 – Issue 1 – p e18457

喘息は中医学では喘証と哮証に分類されます。

哮証は痰がノドでゴロゴロ言う状態であり、必ず喘証をともないます。

喘証は呼吸困難です。

コクランレビューの2004年論文でも、研究の質の低さのため「喘息治療に鍼を勧める十分な証拠は無い」としています。

「慢性喘息への鍼」
Acupuncture for chronic asthma.McCarney RW1, Brinkhaus B, Lasserson TJ, Linde K.Cochrane Database Syst Rev. 2004;(1):CD000008.

さらに、日本では年間約2000人の喘息患者が発作によって死亡しています。喘息の鍼灸臨床では必ずこの事を念頭に置き、吸入ステロイドによるコントロールが十分でない場合や喘息発作時は西洋医学的治療を優先すべきです。

しかし、一方で、ステロイドでコントロール不良な難治性の気管支喘息に対して、鍼治療で喘息発作回数が減少し、呼吸困難感が改善し、ステロイド減量できた症例も報告されています。

「気管支喘息に対する鍼治療の臨床的効果の検討」
鈴木 雅雄et al
『全日本鍼灸学会雑誌』Vol. 56 (2006) No. 4 P 616-627

6例のステロイドでコントロール不良(発作回数が減らない)難治性の気管支喘息に対して、肺兪(BL13)・中府(LU1)・太淵(LU9)・尺沢(LU5)などの配穴でステロイド減量し、喘息発作回数、呼吸困難感やピークフローが改善しました。

また、西條一止先生は『臨床鍼灸学を拓く―科学化への道標』(医歯薬出版2003年)の中で、発作期の「気管支喘息の鍼灸治療」を発表しています。

ポイントは長坐位の姿勢で、定喘・肺兪(BL13)、中府(LU1)、天突(CV22)、膻中(CV17)、尺沢(LU5)、合谷(LI4)、孔最(LU6)などを用います。

「鍼灸研究30年とゆるぎ石との出会い」
西條一止
『全日本鍼灸学会雑誌』Vol. 52 (2002) No. 4 P 379-403

鍼の喘息へのメカニズムについては、以下の2020年論文が秀逸です。

2020年10月「喘息の鍼:臨床における潜在的重要性」
Acupuncture for Asthma: Its Potential Significance in Clinical Practice
Ida Nurwat
Med Acupunct. October 2020; 32(5): 272–279.
Published online 2020 Oct 19.

2017年ドイツのシャリテ大学病院のブリンクハウス教授の研究も臨床研究として参考になります。

2017年「アレルギー性喘息患者への鍼:ランダム化プラグマティック試験」
Acupuncture in Patients with Allergic Asthma: A Randomized Pragmatic Trial
Benno Brinkhaus et al.
The Journal of Alternative and Complementary Medicine
Vol. 23: , Issue. 4, : Pages. 268-277
(Issue publication date: April 2017)

世界的なプラセボ研究者で鍼師であるハーバード大学医学部のテッド・カプチュク先生の以下の研究も物凄く重要です。

2011年7月11日 『ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディスン(NEJM)』
「喘息におけるアルブテロール喘息薬とプラセボ、偽鍼と無治療群」
Active Albuterol or Placebo, Sham Acupuncture, or No Intervention in Asthma.
Michael E. Wechsler and Ted J. Kaptchuk
July 14, 2011 N Engl J Med 2011; 365:119-126

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