鍼麻酔の歴史

2022年3月14日『中国網医療報道』
「切手のなかの麻酔の歴史:鍼麻酔」
邮票里的麻醉历史:针刺麻醉

1958年8月30日に、上海市第一人民医院耳鼻咽喉科で尹恵珠主任医師が合谷の鍼麻酔を使い、扁桃腺摘出手術に麻酔薬を使わずに扁桃腺の摘出手術が行われました。

1965年には周恩来が鍼刺麻酔の原理を研究するように指示し、北京医学院の生理学教室の韓済生先生が研究をはじめました。

1971年7月26日にジェームズ・レストン記者が鍼麻酔について書いた「北京での私の手術について今語る」という記事が『ニューヨークタイムズ』に載ります。

ジェームス・レストン「北京での私の手術について今語る」
James,Reston, “Now, About My Operation in Peking”
, New York Times, July 26, 1971
https://www.nytimes.com/…/now-about-my-operation-in-peking-…

虫垂炎の手術を受けたレストン記者が、次の日になって腹痛と吐き気を訴え、手足のツボに鍼されたことで症状がなくなったことを報道しました。

1971年7月18日に『人民日報』が鍼刺麻酔について大きな報道をします。

1972年にアメリカのニクソン大統領が訪中した際に、鍼麻酔ブームとなります。

以下、引用。

ただし、鍼刺麻酔には、誕生したときから時代と政治の烙印が押されています。

鍼刺麻酔は中医と鍼灸を世界にひろげましたが、谷間に落ち込んでいるように思えます。

これは、その通りだと思います。

中国の韓済生先生は1965年頃から鍼麻酔の研究をはじめ、1987年に「Neurochemical Basis of Pain Relief by Acupuncture, volume 1(鍼による鎮痛の神経化学的基礎)」を出版します。

わたしは、1998年に出版された第2版である『Neurochemical Basis of Pain Relief by Acupuncture, volume 2 (针刺镇痛的神经化学基础) 』、湖北科学技术出版社、1998年を読んだことがあります。

1975年にスコットランドのジョン・ヒューがエンケファリンの発見を『ネーチャー』で報告しました。

ほぼ同時期にソロモン・H・スナイダーがエンドルフィンを発見します。

カナダの獣医ブルース・ポメランツが1976年にエンドルフィンによる鎮痛をナロキソンがブロックすることを発見します。

1976年ブルース・ポメランツ
「ナロキソンはエンドルフィンが導く鍼鎮痛をブロックする」
Naloxone blockade of acupuncture analgesia: endorphin implicated.
Pomeranz B, Chiu D.Life Sci. 1976 Dec 1;19(11):1757-62.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/187888

1977年にはヴァージニア医科大学のデビッド・J・メイヤーが、ヒトにおける針麻酔にエンドルフィンが関与していることを最初に証明します。

「ヒトにおける鍼鎮痛はナロキソンで阻害される」
Antagonism of acupuncture analgesia in man by the narcotic antagonist naloxone.
Mayer DJ,
Brain Res. 1977 Feb;121(2):368-72.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/832169

1979年にはスタンフォード大学のアブラム・ゴールドスタインがダイノルフィンを最初に報告しました。

同じ年に、アラン・バスバウムとハワード・フィールズが下行性痛覚抑制系を発見します。

さらに、1979年から昭和大学の武重千冬教授が大量の鍼麻酔研究を毎年のように発表されます。

1979年武重千冬先生の論文
「針鎮痛有効性の個体差とモルヒネ鎮痛及び中脳中心灰白質刺激による鎮痛の個体差の相関」
武重 千冬et al.『昭和医学会雑誌』Vol. 39 (1979) No. 4 P 413-417
https://www.jstage.jst.go.jp/artic…/jsma1939/…/39_4_413/_pdf

1992年には昭和大学の武重千冬教授が下行性痛覚抑制系と鍼鎮痛の関係を発表されます。

「鍼鎮痛のさいの下行性痛覚抑制系システム」
Descending pain inhibitory system involved in acupuncture analgesia
ChifuyuTakeshige
Brain Research Bulletin
Volume 29, Issue 5, November 1992, Pages 617-634
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/1422859/

韓済生先生は、1-2Hzの電気鍼はエンケファリンとエンドルフィンを分泌させ、100Hzの電気鍼はダイノルフィンを分泌させ、鎮痛の経路が違うことを証明しました。韓済生先生は2Hz/100Hzの疎密波・混合波を電気鍼の臨床で使われているそうです。

2004年 韓済生
「鍼とエンドルフィン」
Acupuncture and endorphins.
Han Ji-sheng
Neurosci Lett. 2004 May 6;361(1-3):258-61.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15135942/

 

私は韓済生先生、ブルース・ポメランツ先生、武重千冬先生の論文を中心に世界中の鍼麻酔研究を読むことで、特に電気鍼について理解を深めることができました。

鍼麻酔と電気鍼の時代的変遷を学問的にまとめておかないと、次のステージに進みにくいと感じています。

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