記憶志向の鍼:鍼は記憶を書き換える

2022年3月17日 イスラエル・ハイファ大学
『トランスレーショナル精神医学』
「PTSD心的外傷後ストレス障害の神経調節治療としての記憶志向の鍼:理論・臨床モデルと症例研究」
Memory-directed acupuncture as a neuromodulatory treatment for PTSD: Theory, clinical model and case studies

以下、引用。

海馬は記憶の統合と再強化プロセスに重要であり、扁桃体と前頭前野の状態のニューロサーキットの一部である。

異なる観点からみれば、研究では、慢性疼痛において海馬と中脳水道灰白質(PAG)のような疼痛関連の脳の領域は強いつながりを示している。

PTSDの基礎に疼痛と記憶の関連がある。研究は、鍼が海馬の活性化と他の脳領域との機能的接続性に影響することを示している、

まとめると、海馬に対する鍼灸の修正可能な効果と文脈や痛みなどの要素の結合におけるその役割、および他の辺縁系領域やDMNとの機能的接続を考慮すると、海馬はPTSD治療の適切なターゲットとして位置付けられる。

このイスラエルの論文は、2例、症例をあげています。

1人はイスラエルの治安部隊でトラウマから2回の自殺未遂と睡眠障害、PTSDとなりました。
もう1人はイスラエルの元・覆面部隊の兵士で、勤務していた10年間の記憶を全て失い、同僚の顔さえ思い出せません。

非常に感銘を受けたのは、PTSDの兵士たちは、トラウマの記憶を思い出すこと強く拒否したことです。
アメリカのPTSDの元・兵士たちも全く同じことを語っており、認知行動療法などの心理療法の治療を受けると、PTSDは劇的に悪化することが報告されています。

アメリカの精神医学の教科書を読むと、アメリカで問題となっているのは「青少年期の虐待」「親がカルト宗教の信者でネグレクトを受けた」「男性から性的虐待を受けた」などの事例が非常に多いです。これらの方々は認知行動療法などの心理療法で劇的に悪化することがあるようです。

イスラエルの鍼師は、10年間の記憶をなくした元兵士に対して、肩の治療と称して針灸治療を行い、PTSDが緩解したことを報告しています。 

個人的には、鍼灸の良いところは「からだの施術」に専念して、結果的に「こころの状態」が改善していることが多いことだと思います。

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