「響かせる鍼」と「響かせない鍼」

2022年2月24日『ネーチャー・サイエンティフィック・リポーツ』
「頸部痛患者の活性化トリガーポイントと潜在トリガーポイントへのドライニードリング:ランダム化比較試験」
Dry needling in active or latent trigger point in patients with neck pain: a randomized clinical trial
Luis Martín-Sacristán et al.
Scientific Reports volume 12, Article number: 3188 (2022)


この論文はディスカッションの部分が面白過ぎます!
著者のスペイン人理学療法士さんたちは鍼の初心者だと思うのですが、初心者だからこそひっかかる部分で議論しています。

以下、引用。

【ディスカッション】
疼痛に関しては、アクティブ・トリガーポイントにドライニードリング鍼をしたグループは治療直後、疼痛は悪化した。しかし、アクティブ・トリガーポイント・グループは1週間後に最も大きな疼痛の減少を示した。

この実験グループは、明らかにアクティブ活性化トリガーポイントに、中医学でいう得気にあたるローカル・トウィッチ反応を多数、起こそうとしていました。

理学療法士さんたちのドライニードリング鍼は、かなり太くて長い鍼を用いて深く刺して、激しい雀啄術をすることで、筋肉がビクンと単収縮する現象をローカル・トゥィッチ反応と呼んでいます。 

つまり、頸部痛・肩こりの患者さんの「押すと遠くまで響く点(アクティブ・トリガーポイント)」に太い鍼を刺して雀啄して響かせる刺激を多数行い、その結果として「症状は直後に悪化したが、一週間後に逆に痛みがとれた」というのは、まさに鍼の初心者がやりがちなことだと思います。

以下、引用。

いくつかの先行研究、ペコス・マーティンらによる研究では、疼痛を治療するには特定の場所を治療することが重要である。

われわれの論文の研究の目的は、以前に著者らがおこなった研究と同じく、より最大のローカル・トウィッチ反応を起こせばより良い臨床効果を得られるという結果を出すことが目的だった。

われわれの研究では、ローカル・トウイッチ反応を最大に得た患者はより良い短期効果を観察できた。

しかしながら、上記とは対照的に、いくつかの研究ではローカル・トウイッチ反応を起こさないドライニードリング鍼のほうがローカル・トウイッチ反応を起こす鍼よりも長期効果が優れているという結果を導いている。

上記のペコス・マーティン(スペイン・アルカラ大学)の研究も非常に面白いです。

頸部痛に対して僧帽筋の下部繊維のアクティブ・トリガーポイントに鍼すると、僧帽筋上部線維のアクティブでないトリガーポイントに鍼するよりも効果が高かったというものです。

2015年「頸部痛の患者の僧帽筋下部繊維のドライニードリングの効果:ランダム化比較試験」Effectiveness of dry needling on the lower trapezius in patients with mechanical neck pain: a randomized controlled trial
Daniel Pecos-Martín
Arch Phys Med Rehabil. 2015 May;96(5):775-81.

以下、引用。

腰痛患者の腰部多裂筋にドライニードリングを適用した別の研究と一致している。ローカル・トウィッチ反応の存在は、1週間での痛み、障害、機能、および圧迫に対する痛みの閾値の大幅な改善をもたらさなかったが、 ローカル・トウィッチ反応が起こった患者は、即座に疼痛閾値と圧痛の大幅な改善を示した。

これらの発見は研究結果によって支持されている。疼痛からの解放はローカル・トウィッチ反応と相関しているが、それは痛みの程度が強いときだけである。

この矛盾した結果も面白いです。
著者グループが鍼の実験結果に困惑しているのが伝わってきます。

僧帽筋などの首肩こりに対して、響かせすぎると逆に痛みやコリが悪化するというのは当たり前に経験する現象ですし、腰痛でアクティブ・トリガーポイントにうまく刺入できて、ローカル・トウイッチ反応(得気)が起こって鍼が響くと、劇的に疼痛が改善するというのも当たり前に経験する現象です。

経験を積んでくると無意識的に回避できる副作用的な現象にスペインの理学療法士さんたちはつきあたっており、逆に、鍼の初心者が必ず突き当たる壁がどこに存在するかが明確になるという意味で、読んで良かったと思いました。

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