沖縄伝統食と100歳長寿者研究

2020年10月12日『ナショナルジオグラフィック』
「この島(沖縄)は長寿の秘密を明らかにしているーそして困難な時期を乗り越える方法をしっている」

「沖縄は世界でもっとも健康で幸せな地域であり、強い社会ネットワークと美味しい料理がその秘密かもしれない」

This island unlocked the secret to long life—and knows how to get through tough times

以下、引用。

日本の南に位置する沖縄は『ナショナルジオグラフィック』の探検家ダン・ビュイトナーがブルーゾーンと呼ぶ世界で最も長寿で幸せな人々が生きる地域である。沖縄の他にはイタリアのサルディニア島、コスタリカのニコヤ半島、ギリシャのイカリヤ島、カルフォルニアのロマリンダである。沖縄への旅とブルー・ゾーンはサバイバルすること、そして困難な時代に逆境を通じて成長することを教えてくれる。

『ブルーゾーン 世界の100歳人に学ぶ 健康と長寿のルール』
ダン・ビュイトナー著
ディスカヴァー・トゥエンティワン (2010/12/29)

百歳以上の長寿者研究は、ベルギーの人口学者、ミシェル・プーランがサルディニア島の100歳長寿者を調査して名付けました。ブルー・ゾーンはミシェル・プーランとダン・ビュイトナーが共同調査しました。

2013年『ウィーン人口年鑑』ミシェル・プーラン
「ブルー・ゾーン:世界で非常に長寿の地域」
The Blue Zones: areas of exceptional longevity around the world
Michel Poulain
Vienna Yearbook of Population Research
Vol. 11, Special issue on Determinants of unusual and differential longevity (2013), pp. 87-108 (22 pages)

以下、引用。

「世界のすべての長寿文化は困難な時期に苦しんでいた」と ダン・ビュイトナー は語る。「彼らは戦争、飢饉、私たちが今苦しんでいるのと同じ種類のストレスを経験した。そしてそれは私たち全員にとってのレッスンである。

「沖縄人は何をわれわれに教えてくれるのか。大宜味村の長寿の歴史はなぜだろうか。長寿は食事・社会行動・遺伝学からきている」と1975年以来、沖縄県の百寿者研究をしている沖縄国際大学の公衆衛生と老人学の教授であるクレイグ・ウィルコックスは説明する。

2002年にハーバード大学のブラッドリー・ウィルコックスと沖縄国際大学のクレイグ・ウィルコックスが『オキナワ・プログラム』という本を出版し、アメリカでベストセラーになります。これは、世界の長寿国である日本の中でも最長寿県である沖縄の食生活の秘密を分析した本です。

ハーバード大学医学部の研究者だったウイルコックスは長寿の地域である沖縄に注目し『沖縄長寿者研究』を上梓しました。2004年、『オキナワ式食生活革命―沖縄プログラム』(飛鳥新社)として翻訳されて、日本語でも出版しました。

2003年、沖縄の男性の平均寿命が4位から26位に急落しました。ここに焦点を当てたのが沖縄タイムス「長寿」取材班編、『沖縄が長寿でなくなる日―“食”、“健康”、“生き方”を見つめなおす』です。

沖縄は米軍基地の街です。米軍基地で働く人はステーキやハンバーガーなどのアメリカ式食生活になり、100メートル先の自動販売機にも自動車に乗り、歩かなくなりました。米兵と同じライフスタイルになると寿命がすごく短くなったことに驚きます。

 
『「営食養生」―世界調査と遺伝子研究で判った食の力―』
家森 幸男
『健康医学』Vol. 19 (2004-2005) No. 1 p. 7-14

2022年5月15日『時事通信』
『「長寿県沖縄」今は昔 食生活変化が影響か―沖縄復帰50年』

沖縄県は50年前の本土復帰後しばらく、平均寿命が全国上位の「長寿県」だった。1980年は男女ともに1位だったが、2015年には男性36位、女性7位まで順位が低下した。

以下、引用。

薬としての食べ物=命薬(ぬちぐすい)

沖縄の伝統的な言葉に「命薬」がある。食べ物を薬とするという意味がある。沖縄では1960年代まで主食は米ではなく紅イモだった。実験室では哺乳類はカロリー制限したほうが長生きすると、ウィルコックスは述べる。

沖縄社会は、老人でも生きる目的や生き甲斐を人生でもつようにつくられている。ウィルコックスは沖縄の人々は複数の模合(寄合)に所属するのが普通であると記述している。

沖縄の人々の長寿の理由は、食生活と孤独ではない社会生活であり、特につながりをもった社会ネットワークのようです。

2014年「沖縄におけるカロリー制限と健康:議論と臨床的意義」
Caloric restriction, caloric restriction mimetics, and healthy aging in Okinawa: controversies and clinical implications
Bradley J Willcox 1, Donald C Willcox
Curr Opin Clin Nutr Metab Care. 2014 Jan;17(1):51-8.

沖縄長寿者と食生活の研究は重要だと思います。

個人的に面白かったのは、沖縄の百歳長寿者の遺伝的特徴に関するブラッドリー・ウィルコックス教授の論文です。

2014年
「沖縄人は誰か。祖先、ゲノムの多様性、および地理的に孤立した集団からの人間の寿命の遺伝的研究への影響」
Who are the Okinawans? Ancestry, genome diversity, and implications for the genetic study of human longevity from a geographically isolated population
Bradley J. Willcox
J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2014 Dec;69(12):1474-84.

以下、2014年ブラッドリー・ウィルコックス論文より引用。

地理的に隔絶されているため、5,000年から1万年前の旧石器時代に最初の人々が到達した後は沖縄への他の地域からの流入はほぼなかった。

日本で最も古い遺跡である沖縄の山下洞穴遺跡は3万年前にさかのぼり、縄文人の祖先と考えられている。

2,000年前に朝鮮半島から日本に来た弥生人という新移民により二つの民が混じりあったが、沖縄と北海道では遺伝的影響を及ぼさなかった。

平均して沖縄人は日本人と80.8%の混合物を共有し、中国人と19.2%の混合物を共有することがわかった。

日本の医師、高月清先生が1976年に成人T細胞性白血病を発見しました。
1981年に京都大学医学部の日沼頼夫先生が成人T細胞性白血病ウイルス(HTLV-1)を分離します。

面白いのは、成人T細胞性白血病ウイルスのキャリアが九州・沖縄に多いことから、ウイルス学者の日沼頼夫先生が独自の縄文人・弥生人の学説を提唱したことです。成人T細胞性白血病の分布の分析からアイヌと沖縄人の祖先は縄文人であるというものです。

「ウイルスから日本人の起源を探る」
日沼 頼夫
『日本農村医学会雑誌』1997 年 46 巻 3 号 p. 249

これは医学と歴史に興味のある人間の間では1990年代に一世を風靡した面白い学説ですが、ヒト・ゲノムが解析され、研究が進むと、日沼頼夫先生の学説はどうやら正しかったようです。30年前の学説の答え合わせを知ることができてうれしかったです。

沖縄伝統文化からは学ぶことがたくさんあります。

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