行動変容の技術:メソッド演技・ヨーガ・サイコドラマ

2022年8月27日『藤谷&町山アメTUBE』
「ハリウッド俳優の精神崩壊 メソッド演技の危険性とは!?」

これはとても面白かったです。

ハリウッドの演技理論は旧ソ連のスタニスラフスキーの創りだした演技の方法論、スタニスラフスキー・メソッド、メソッド演技が中心です。ロバート・デニーロなどのハリウッド俳優が『ゴッドファーザー』に出演するためにシチリア島に住んだり、『タクシードライバー』に出演するために実際にタクシードライバーとして働いたり、「その人になりきる」という演技の方法論です。そのために女優さんたちは共演者と実際に恋愛関係になることもあります。アカデミー賞3回のダニエル・デイ・ルイスは代表的なメソッド演技の俳優です。しかし、この方法論は、役者を精神不安定にします。映画『ダークナイト』のヒース・レジャーは典型的です。

一方で、女優のメリル・ストリープやアンソニー・ホプキンスはメソッド演技否定派だそうです。特に、メリル・ストリープの卒業したイエール大学演劇学校はメソッド演技否定派で知られます。イエール大学演劇学校は世界の芸術演劇学校の第1位であり、ポール・ニューマンやシガニー・ウィーバーが卒業生です。

ジョーダン・ピール監督の映画『アス』で主演したルピタ・ニョンゴはイエール大学演劇学校卒業生で『それでも夜は明ける』でアカデミー助演女優賞も受賞しています。ルピタ・ニョンゴは映画『アス』で1人二役をしていますが、これは確かにメソッド演技では不可能です。イエール大学演劇学校はメソッド演技を否定しているそうです。М・ナイト・シャマラン監督の映画『スプリット』『ミスター・ガラス』では、ジェームス・マカヴォイが24の人格を持つ多重人格者を演じ分けていますが、これもメソッド演技では不可能です。

女優の藤谷文子さんはスタニスラフスキーのメソッドとフロイトの精神分析学がほぼ同時期につくられたことを指摘されています。これは凄い鋭い指摘だと感じました。

『スタニスラフスキーとヨーガ』
セルゲイ チェルカッスキー
未来社 (2015/8/6)

以下、引用。

学生たちが、舞台上で動物や植物や物体、石にさえなるレッスンが日常茶飯事となった今日、スタニスラフスキーが東洋の世界観の影響を受けて第1研究所で行っていた俳優トレーニングの方法がいかに大きな革命的な意義をもっていたか、気づくことさえ稀になってしまった。

サンクトペテルブルク大学国立演劇アカデミー教授のセルゲイ・チェルカッスキー先生によれば、1911年頃にスタニスラフスキーはヨーガの存在を知り、それを演劇の俳優トレーニングに取り入れました。これはフロイトによる精神分析療法の創案とほぼ同時期になります。

フロイトにウイーン大学で学んで、ユングの弟子であったヤコブ・モレノは、患者に演劇をさせる「サイコドラマ」という集団精神療法を1920年代アメリカでつくりました。

1930年代にはアルコホリック・アノニマスもアメリカで生まれています。

さらに、1940年代のクルト・レヴィンの集団力学からのTグループ、1960年代のカール・ロジャースのエンカウンター・グループ集団精神療法の開発となります。

サイコドラマでは、患者さんは精神の変容と行動の変容を経験します。メソッド演技をしている俳優は常にサイコドラマ精神療法を受けているのと同じ状態で、精神的におかしくなっても不思議ではないわけです。

現在、アメリカでも日本でもカルト宗教によるマインドコントロールが精神医学で大きな問題として取り上げられています。メソッド演技はいわば自己洗脳の技法です。メソッド演技やサイコドラマの含む問題は、人間の心の深さを感じさせてくれます。

1980年代ー1990年代にはメソッド演技は最高の演技技法と考えられていたのですが、現在の名優たちが「メソッド演技は意味がない」と相次いで発言しているのをみて、自分が若い頃の常識がどんどんひっくりかえっていることを痛感します。

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