女性の低い性的欲求障害への鍼

思い出したのは、昭和の名灸師、深谷伊三郎先生が、女性の不感症に伏兎の灸を使われていたことです。

以下、引用。

伏兎とその上下点は、不感症の人にはよく出ている圧痛点で、人によっては中心ではなく、左右、すなわち内か外に偏って出ることもあるが、これは見逃してはいけない治療点である。
『お灸で病気を治した話第３集』鍼灸之世界社２ページ

深谷伊三郎先生は伏兎を中心にして、上下四横指の範囲を「伏兎３点」として婦人科の疾患の診断点にされていたようです。

【性科学の歴史】
性科学・性医学は、フロイト以来の流れとアメリカの『キンゼー報告』以来の流れがあります。

アルフレッド・キンゼーは、1948年に『人間における男性の性行為』、1964年に『人間における女性の性行為』という2冊の、いわゆる『キンゼー報告』を発表します。

1966年には、ウィリアム・マスターズとヴァージニア・ジョンソンの『人間の性反応』『人間の性不全』が出版されます。いわゆるマスターズ＆ジョンソン報告です。

1975年にはジョン・マネーの『性の署名』(邦訳は人文書院1979年)が出版されます。これは性同一性障害に関する最初の医学研究書です。

1970年代に性科学者・セックスカウンセリングのヘレン・シンガー・カプランが「女性の低い性的欲求障害(HSDD)」を提唱します。

カプランは1978年にアメリカ精神疾患診断マニュアルDSMー3の編纂委員会に参加し、1980年のDSMー3にHSDDが入りました。

1994年のDSMー４では「女性の性的興奮障害(FSAD)」と名前が変わりました。

2013年には、「女性の性的興味／興奮障害(FSIAD)」と名前が変わりました。

2015年8月にアメリカのFDAがHSDDの薬物としてフリバンセリンを認可しました。

2019年にアメリカFDAがHSDDの薬物として、注射する薬であるブレメラノチド、商品名バイレッシを認可しました。

HSDDを提案したヘレン・シンガー・カプランの弟子として、セックス・カウンセリングのルース博士、ルース・ウエストハイマーがいます。

2019年に『教えて！ドクター・ルース』というドキュメンタリー映画として映画化され、世界中のドキュメンタリー映画祭で賞を受賞しました(アマゾン・プライムで視聴可能)。

ルース博士はナチス・ドイツのホロコーストの生き残りで、父親はアウシュヴィッツ収容所で亡くなり、スイスの孤児院で6年を過ごします。

ルース博士は20歳でパレスチナに移住し、イスラエル軍で女性スナイパーのエース狙撃手となりますが、戦闘で重傷を負います。

22歳でフランスに移住し、ソルボンヌ大学でジャン・ピアジェに心理学を学び、大学を卒業します。

28歳でアメリカに移住し、メイドとして働きながら社会学の修士を取得します。

1970年に42歳で社会学の博士を取得し、コーネル医科大学でヘレン・シンガー・カプランに7年間学び、ニューヨークでセックス・セラピストとして開業します。

1980年に52歳でラジオ番組『セクシャリー・スピーキング』をはじめて、全米で大人気番組となります。

2013年にはブロードウェイで『ルース博士になる』という芝居として人生が上演されます。

2019年には、ドキュメンタリー映画『教えて！ドクター・ルース』が、世界中の映画祭でドキュメンタリー映画賞を受賞しました。