古代ギリシャ医学ヒポクラテスからインドのダラック・マッサージへ

2019年
「マッサージのユナニ医学の観点:ダラック」
A UNANI PERSPECTIVE OF MASSAGE: DALAK
Abbasi, Hana
CELLMED
Volume 9 Issue 3 / Pages.6.1-6.5 / 2019

古代ギリシャ医学のヒポクラテスの時代からマッサージは存在していたと考えられています。

この古代ギリシャ医学(インドやパキスタンのユナニ医学)のマッサージは、インドのダラック・マッサージ、イラン伝統医学のダルク、マレーシア伝統医学ウルット・ムラユとして、現代も生ける伝統技術として存在しています。

ヒポクラテスのギリシャ医学は、シリア出身のネストリウス派キリスト教徒である医師のフナイン・イブン・イスハークによってギリシャ語からアラビア語に翻訳されました。アッバース朝の第7代カリフがイラクのバクダードにつくった知恵の館で作業を行いました。しかし、知恵の館は1258年のモンゴル軍によるバクダード侵攻で焼かれ、灰塵に帰しました。

フナイン・イブン・イスハークによる翻訳は、イラン生まれのラーズィー(哲学者ラーゼス)や現在のウズベキスタン出身のイブン・スィーナー(スコラ哲学者アヴィセンナ)の『医学典範』でまとめられます。

モンゴル帝国はアッバース朝を滅ぼしましたが、残るイスラム帝国はスペインを支配していました。12世紀スペインのユダヤ医師・哲学者モーゼス・マイモニーデスはスペイン・コルドバ出身です。

マイモニーデスと同時代のイスラム伝統医学医師イブン・ルシュドもスペイン・コルドバ出身の哲学者・医師でした。

インドのユナニ医学のマッサージの論文を読むと、現在のインド・ユナニ・マッサージであるダラックの基礎は、イブン・スィーナーとスペインのイブン・ルシュドによってつくられました。

神聖ローマ皇帝フリードリヒ2世はラテン語、アラビア語、ギリシャ語を話すことができ、パレルモで生まれて、シチリア王・神聖ローマ皇帝となりました。エルサレムからシチリアに移住したユダヤ人をパレルモの宮廷で雇い、彼らをギリシア語とアラビア語の書籍の翻訳に従事させました。これを12世紀ルネサンスと呼びます。スペイン・トレドのユダヤ人とイタリア・パレルモのシチリア王国のユダヤ人たちがアラビア世界の医学をヨーロッパに紹介しました。

フリードリヒ2世の統治するシチリア王国・イタリアは、ユダヤ人やノルマン人やアラブ人が共存する時代でした。フリードリヒ2世は学術に力を入れ、ナポリ大学を創設したため、現在でもナポリ大学は「フェデリコ2世のナポリ大学」が正式名称です。

さらにフェデリコ2世はサレルノ医学校を勅令で認可し「シチリア王国の領内で診療・医学教育を行うには試験に合格して国王からの免許を得なければならず、その試験の権限はサレルノのドクターに限ること」を布告しました。

サレルノは世界最古のボローニャ大学に次ぐサレルノ医学校とサレルノ養生訓で有名です。サレルノ医学校で有名なのは、アフリカ・チュニジア出身のイスラム伝統医学の有名な医師コンスタンティヌス・アフリカヌスです。彼はイラクのバクダードで医学を学び、シチリアには商人として移り住み、1077年にイタリア・サレルノ医学校の教師となったイスラム教徒であり、イスラム伝統医学をヨーロッパに伝えました。

『サレルノ養生訓』とヒポクラテス―医療の原点
大槻 真一郎 (著)
コスモスライブラリー (2017/5/1)

14世紀にオスマン1世がオスマン・トルコをつくり、1453年にはコンスタティノープルを陥落させ、東ローマ帝国を滅ぼしました。コンスタンティノープル(イスタンブール)はイスラム伝統医学(ユナニ医学の源流)が盛んとなります。

14世紀の中央アジアで、チンギス・ハンの子孫であるティムールがイスラム教に改宗しました。ティムールの孫であるバーブル大帝は北インドでムガル帝国をつくります。

ムガルとはモンゴルという意味です。この中央アジア出身のバーブル大帝が、現在の中国新疆ウイグル自治区シュガルのトルキスタンのイスラム伝統医師たちをインドのデリーに連れてきます。ハキーム・アジマル・カーンの祖先は、ムガル帝国の成立時にバーブル大帝によってトルキスタンからインドに移住しました。

ハキーム・アジマル・カーンはイギリス統治下のユナニ医学を絶滅から救い、1920年にインド・国立イスラム大学の初代総長となりました。

ハキーム・アジマル・カーンの孫は、インドからパキスタン独立の際にパキスタンに移住し、パキスタン全土に医療センターをつくりました。

インドのイスラム伝統ユナニ医学のダラック・マッサージには以上のような歴史があります。人類の文化と歴史そのもののようです。リスペクトの感情しかないです。

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