2022年11月3日 テキサス工科大学心理学部
「セロトニン仮説は消滅したのか。もしそうなら臨床心理学はどのように反応するのか」
Is the serotonin hypothesis dead? If so, how will clinical psychology respond?
Nicholas C. Borgogna1(テキサス工科大学心理学部)
Stephen L. Aita(アメリカ退役軍人省ヘルスケア)
Front. Psychol., 03 November 2022
Sec. Psychology for Clinical Settings
Volume 13 – 2022
以下、引用。
セロトニンの増加は、実際にはうつ病の改善とは関連がないという証拠が相次いでいる。
この点は最近、2022年のジョアンナ・モンクリフ教授によって指摘された。モンクリフ教授のアンブレラ・レビューでは、セロトニン仮説がほぼ完全に否定されている。具体的には、モンクリフ教授はセロトニン濃度/活性の低下とうつ病を結び付ける一貫した証拠はないという説得力のあるデータを示している。
我々は次のような疑問を提起する。もしセロトニン仮説が消滅しつつある(あるいはすでに消滅している)なら、臨床心理学者はどのように対応するのだろうか。我々は好ましい結果につながるかもしれないいくつかの道筋を提案したい。まず、多くの治療法と同様に認識することが最初のステップである。我々はセロトニン仮説の崩壊の影響と今後の可能性のある方法について、臨床心理学コミュニティ内で活発な議論を行うことを提案する。
こうした会話は教室にも広げられるべきである。大学院のトレーニングプログラムや異常心理学、生物心理学などの専門の学部課程のほとんどではセロトニン仮説の側面がさまざまな程度で議論されている。
実際、大学院生を含む一般人が会話の中でセロトニン仮説をまるで科学法則であるかのように議論することは珍しくない。将来の心理学者を教育する方法を調整することで、誤情報の波を抑えることができる。
明確にするために、私たちは現在のクライアントが適切な相談なしに SSRI を中止することを推奨していない。実際、セロトニン再取り込み阻害薬がうつ症状を治癒しないとしても、SSRI の中止に伴う離脱症状は神経系を混乱させ、有害な副作用を引き起こす可能性がある。
ほとんどの臨床心理士は医学の訓練を受けていないが、私たち臨床心理士は研究方法の訓練を受けている。全体として、臨床心理学者がこれらのセロトニン仮説の発展にどのように対応するかによって、不必要な人間の苦しみが軽減されることが期待される。
退役軍人などのうつ病の臨床を実際に行っている臨床心理学者の先生方の誠実な態度に感動しました。また、教育者としても、将来の心理学者である学生たちに対して責任ある態度を優先し、未来の臨床心理士が誤情報の波を拡散しないことを優先しています。プロの臨床心理学者・教育者として、自分たちがどのようにセロトニン欠乏仮説の崩壊という歴史的パラダイム・シフトに対応するのかを問われているという意識が伝わってきます。困難をチャレンジと受け止め、チームで乗り越えてコミュニティーに貢献しようというなアメリカの良いところが凝縮されています。自分の学問と臨床の経験に絶対的な自信があるからこそ、このような態度がとれると思います。
2023年1月26日の以下の記事も良かったです。
2023年1月26日『クオンタ・マガジン』
「うつ病の原因はおそらくあなたが思っているものとは違う」
The Cause of Depression Is Probably Not What You Think
2022年のジョアンナ・モンクリフ教授のレビューによってセロトニン欠乏仮説が崩壊後、腸内細菌説や機能性結合説、慢性炎症説など、セロトニン仮説以外のうつ病の多様な病因の学説が勃興したことを描写し、最終的に「うつ病は多様な原因で起こる」「現在のうつ病は将来には多くの病気に分割される」「うつ病の治療は個人によって組み合わせを変えて調整する必要がある」というアンブレラ・セオリーを紹介しています。最後は「(セロトニン仮説の崩壊によって)われわれは未知の広大な新大陸を発見した」という言葉で締められています。これこそが科学的態度でありフロンティア・スピリットなのだと感じました。
Many thanks to Adrien Ledoux for a beautiful featured image!
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