2024年6月 スペイン・セビリア大学
「横隔神経が支配する横隔膜下の臓器:システマティックレビュー」
Subdiaphragmatic phrenic nerve supply: A systematic review
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María Pérez-Montalbán
Annals of Anatomy – Anatomischer Anzeiger
Volume 254, June 2024, 152269
以下、引用。
横隔神経は横隔膜下臓器と接続し、神経を支配する。
このレビューは、首や肩の痛み、しゃっくり、横隔膜周囲疾患のある人をケアする専門家に役立つ。
だいぶ前のことですが、鍼灸学校で臨床歴30年以上の先生がこう言われていました。
「鍼灸師は肩こりの治療にはじまり、肩こりの治療に終わる。おれは肩こりの治療が一番、難しいと感じている。内臓からの関連痛の首肩こりは全部むずかしい。左肩こりは心臓の肩こりや胃の肩こりがある。右肩こりは肝臓・胆嚢の肩こりがある。内臓の状態が改善しないと肩こりは緩和しない。肩こりの鍼灸が簡単というのは、初心者の証拠や。肩こりが一番むずかしいわ」
江戸時代の肩こりの認識を調べた際に、中国伝統医学の内臓の症状である痃癖(げんぺき)が肩こりをとる表現である按摩痃癖と按摩の対象となり、内臓由来の肩こり、肩癖から関西弁の「けんびき」になった歴史を知りました。
日本漢方の細野史郎先生は胸脇苦満と肩こりの関係を分析し、胸脇苦満をともなう横隔膜周辺の臓器による肩こりを横隔膜症候群と呼ばれています。細野八郎先生は肩こりを横隔膜の内臓体性反射と分析し、その際にトラベルのトリガーポイントの概念を論じられていました。
1965年「胸脇苦満を語る (III)」
細野 史郎『日本東洋醫學會誌』Vol. 16 (1965) No. 4 P 163-187
1966年「内臓疾患に伴う横隔膜反射ーその東洋医学的意義ー」
細野 八郎, et al.『日本鍼灸治療学会誌』Vol. 15 (1966) No. 1 P 379-383
以下、2024年セビリア大学の論文より引用。
腹部のいくつかの組織の刺激が首、肩、腕のC3-C4-C5皮膚分節に沿った関連痛を引き起こすことは一般的に知られている。
たとえば、Netter の解剖学の教科書には肝臓、胆嚢、十二指腸の損傷が横隔膜の刺激により肩上部に痛みを引き起こす可能性があると書かれている。
【4.2.2 肝臓と胆嚢】
肝臓の生検部位の電気凝固中に、患者の約 20% が右肩部に痛みを訴える。胆嚢摘出手術は、慢性の首の痛みの問題を解決する。
【4.2.3 .食道と胃】
したがって、胃穿孔や出血性潰瘍に続く首や肩の痛みは胃の横隔膜供給だけでなく、腹膜刺激にも関連している可能性がある。
食道裂孔ヘルニアと胃食道逆流症は首、左肩、腕、顎の痛みを引き起こす。
胃の膨張によって食後肩痛が起こることも報告されている。
最後に、胃捻転は首と左腕に痛みを引き起こすことも示されている。
【4.2.6 膵臓】
糖尿病やメタボリックシンドロームは首や肩の痛みと頻繁に関連付けられている。
さらに、長期にわたる内臓疾患が中枢感作を引き起こし、筋骨格系の痛みを増大させ、筋膜トリガーポイントを生成する能力により、代謝疾患患者の膵臓、胃、および/または食道の苦痛が首や肩の痛みと関連している可能性がある。
西洋医学の用語であるケール徴候は脾臓破裂の出血の際に左肩が痛むことです。子宮外妊娠でも左肩上部の痛みが出ます。
イギリス政府NHS「子宮外妊娠 症状」
https://www.nhs.uk/conditions/ectopic-pregnancy/symptoms/
腎結石でもケール徴候の肩痛は出るようです。今回調べたら、胆石症と腎結石の患者さんは石灰沈着性腱板炎の肩痛が多いという論文がありました。
2024年6月「石灰沈着性腱板腱炎と腎結石症および/または胆石症との関連:症例対照研究」
Association of calcific rotator cuff tendinopathy with nephrolithiasis and/or cholelithiasis: A case–control study
Yara Jomaa
Medicine (Baltimore). 2024 Jun 7;103(23):e38482.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11155589/
これは、胆石はカルシウム(とビリルビン)ですし、腎結石もカルシウムで、石灰沈着性腱板炎もカルシウム沈着というロジックですが、内臓体性反射も関係していそうです。かなり離れた内臓症状でも肩に影響が出るというのが驚きです。
ケール徴候の名前の由来になった医師のハンス・ケールは胆石症を専門に研究した医師で、胆嚢の症状で右肩の痛みが出ることはたくさん書いていましたが、1回だけ脾臓由来の左肩痛を記述して、ケール徴候で医学史に名前が残ったようです。横隔神経はC3・C4・C5の神経支配であり、内臓性肩こりとの関連で重要だと思います。
Many thanks to ゆきのしろくま for a beautiful featured image!
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