化学療法誘発末梢神経障害の鍼

2026年4月12日『がんネットワーク(cancer network)』
Assessing Acupuncture Feasibility in the Oncology Treatment Paradigm
がん治療における鍼治療の実現可能性の評価

ティン・バオ医師(医学博士、理学修士)は、化学療法誘発性神経障害は鍼治療によって軽減できる可能性があると示唆したが、第3相臨床試験の結果はまだ出ていない。

現在、アメリカのスローン・ケタリング記念がんセンターとダナ・ファーバー癌研究所で化学療法誘発末梢神経障害(CIPN:Chemotherapy-Induced Peripheral Neuropathy)の鍼のフェーズ3臨床試験ACTが進行中です。
以下、引用。

私は乳がん治療を専門とする腫瘍内科医であり、統合医療医、そして鍼灸師でもあります。この疾患については、過去6年間、あるいはそれ以上前から研究を続けてきました。現時点では、エビデンスはまだ中程度と言えるでしょう。単群の小規模なランダム化比較試験では、鍼治療が化学療法誘発性末梢神経障害の軽減に有効である可能性が示されていますが、フェーズ・スリー第3相ランダム化比較試験の結果を待っているところです。うまくいけば、今年後半には結果が出るでしょう。今後の展開にご注目ください。

白金プラチナ系抗がん剤、タキサン系、ビンカアルカロイド系、ボルテゾミフなどを投与された250名の患者を対象にした鍼の臨床試験です。

ボルテゾミフ(日本での商品名:ベルケイド)は、多発性骨髄腫を15%の確率で完全寛解させたことで注目を浴びた人類初のプロテアソーム阻害薬です。プロテアソームとは細胞内の異常タンパク質を分解する酵素複合体で、ユビキチンを介したプロテアソームによる蛋白質分解メカニズムは2004年のノーベル賞受賞となりました。ボルテゾミフは歴史に残るような画期的な抗がん剤ですが、30パーセントの確率で末梢性神経障害を起こします。

ビンカアルカロイド系は、もともとマダガスカル原産のニチニチソウが先住民伝統医学の薬として使われていたのですが、1950年代にカナダのロバート・ノープルがビンクリスチン、イーライリリー製薬がビンブラスチンをつくります。ビンクリスチンは小児の急性リンパ性白血病の生存率を飛躍的に向上させ、白血病治療に革命を起こします。ビンブラスチンもホジキン・リンパ腫の60%〜80%の腫瘍を縮小させ、完全寛解の症例もありました。

タキサン系は、1960年代にネイティブインディアンの薬であるイチイの抗腫瘍作用が確認され、1967年にブリストルマイヤーズが商標、タキソール(成分名:パクリタキセル)として発売し、肺がん・乳がんなどの抗がん剤として使われています。

パクリタキセルは、微小管のチューブリンに結合することで抗がん作用があります。パクリタキセルの使用は40パーセント以上に末梢神経障害を起こします。

プラチナ系抗がん剤(platinum agents)は、1965年にプラチナの細胞分裂抑制作用が発見され、1978年にシスプラチンがFDAに認可され、精巣癌の生存率を数%から90パーセント以上にあげ、1983年に日本で承認されました。名古屋大学の喜谷喜徳が開発したオキサリプラチンなどが知られています。

2023年3月27日
Acupuncture May Help to Prevent Chemotherapy-Induced Peripheral Neuropathy: A Randomized, Sham-Controlled, Single-Blind Study
「鍼治療は化学療法誘発性末梢神経障害の予防に役立つ可能性がある:ランダム化、プラセボ対照、シングルプラインド試験」
Ming-Cheng Huang et al. Oncologist. 2023 Jun 2;28(6):e436-e447.

臨床試験の結果は、オキサリプラチンと同時に鍼治療を行うことで、ステージ 3 の大腸がんにおいてしばしば衰弱させる化学療法誘発性末梢神経障害を予防できることを示している。真鍼治療は、CIPN の予防において触覚閾値に対する偽鍼治療よりも優れた予防効果を示した。鍼治療による触覚閾値への有益な効果は、介入終了後少なくとも 6 カ月間持続した。

2007年にドイツのハイデルベルク中医学院の鍼師、ザビーネ・シュレーダーが最初の論文を『ヨーロッパ神経学雑誌』に発表し、がん化学療法の末梢性ニューロパシーの鍼治療の研究は急激に学問的に発展した分野です。

2026年1月2日
A Narrative Review of the Efficacy of Acupuncture in Chemotherapy-Induced Peripheral Neuropathy in Cancer Patients
「がん化学療法誘発性末梢神経障害の鍼の効果のナラティブレビュー」
Li-Juan Chen, MD, Journal of Evidence-Based Integrative Medicine

鍼治療の効果は、関与する神経毒性物質によって異なる可能性がある。最も確固たる証拠はタキサン系薬剤(例:パクリタキセル)およびプラチナ系薬剤(例:オキサリプラチン)によって誘発されるCIPNに関するものである。タキサン系薬剤誘発性CIPNに関する研究は、主に乳がん患者を対象としており、感覚症状および疼痛に対する肯定的な効果が一貫して示されている。
ビンカアルカロイド誘発性CIPNに関する証拠は現在より限られており、今後の研究で取り組むべき文献上のギャップを反映している。

化学療法誘発性末梢神経障害(CIPN)は、それぞれ抗がん剤によって神経毒性のメカニズムが異なります。末梢神経の再生には時間がかかり、患者さんへの説明にはエビデンスがあると助かります。現状のデータをみると、20年前とは隔世の感があります。

最近では、以下の論文が一番参考になりました。

2025年3月19日 MDアンダーソンがんセンター
Beyond p-values: a cross-sectional umbrella review of chemotherapy-induced peripheral neuropathy treatments
「『P値(P-value)』を超えて:化学療法誘発性末梢神経障害(CIPN)のクロスセクショナル・アンブレラ・レビュー」

以下、引用。

まとめると、鍼のみの鍼治療は少なくとも週に1回、9~10週間の施術を受けた後、痛みや感覚の症状に対してより効果的であるように思われ、その潜在的な効果は介入後4週間まで持続する。化学療法誘発性末梢神経障害患者に対する鍼治療の長期的な有効性に関するデータはないが、他の慢性疼痛疾患に対する鍼治療のメタアナリシスに基づくと、効果は1年以上持続する可能性がある。
【ディスカッション】
鍼のみの鍼治療、または電気鍼治療も化学療法誘発性末梢神経障害患者に対する治療選択肢となり得るが、効果が現れるには、患者は毎週または隔週の治療を 8~10 週間必要とする可能性がある。↑

私の経験でも、化学療法誘発性末梢神経障害は、最終的に完治した患者さんでさえ、改善を感じるまで2~3カ月から半年かかっている症例が多いです。だから、8週間から10週間というのはリアルな印象です。患者さんにも「神経再生は1日1mmと言われていて、時間が掛かります」とお伝えしています。

Many thanks to bBear for a beautiful featured image!

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