立夏の養生と東洋医学の「心」

世界保健機構(WHO)のICD-11の心の臓腑弁証では、心気虚証(Heart qi deficiency pattern)が存在します。
動悸、息切れ、疲労倦怠、自汗、白い顔色、結脈、代脈などが症状です。
代脈は規則的に、結脈は不規則に脈が止まる不整脈です。動悸・息切れがして、不整脈で、顔色が白く、冷や汗が止まらない時は、すぐに病院に行ってください。

臓腑弁証の心気虚証で鍼灸の臨床の対象となるのは、西洋医を受診して、心電図や精密検査を受けてなお異常が発見できなかった心臓神経症だけだと個人的には思います。

アメリカ循環器学のパイオニアであり、WPW症候群の病名の由来となったポール・ダドリー・ホワイトが心臓神経症の概念をまとめましたが、心臓神経症は昔の精神医学の病名であり、現代のDSM(アメリカ精神疾患の診断・統計マニュアル)には存在しません。

救心製薬株式会社の「救心」や「六神丸」には蟾酥(せんそ:ヒキガエルの分泌物)、牛黄(ごおう:ウシの胆石)、熊胆(ゆうたん:クマの胆のう)、麝香(じゃこう:ジャコウ鹿の分泌物)などが含まれていました。
日本の漢方、救心は、動悸・息切れなどが対象なので、まさに中医学の臓腑弁証の心気虚証のような症状を対象としていたようです。

東洋医学では、夏は心・小腸の季節です。『黄帝内経素問・蔵気法時論篇』に「心は夏を主り、手少陰心経と手太陽小腸経の主治である(心主夏、手少陰太陽主治)」とあります。
5月5日以降は立夏であり、東洋医学の夏です。夏の食べ物と養生を考えると、東洋医学の心・小腸の理論が理解できます。

夏は、麦の季節です。『黄帝内経』では、五穀で麦は五行の火に属し、心の穀物です。小麦は、甘麦大棗湯という漢方処方にも配合されている生薬です。甘麦大棗湯は「臓躁」という精神不安定に使われます。

小麦は、秋にタネをまき、5月から6月の夏に収穫をします。麦茶や冷や麦、素麺、ビールは夏においしく感じます。夏の暑いときに麦茶やビールを飲むと、イライラがおさまり、のどの渇きが止まり、尿がたくさん出ます。気温が高くなると、大地には麦ができます。まるで、天地自然が人間に、夏は麦を食べるように言っているかのようです。

『本草綱目』には小麦について以下の記述があります。

甘味で、微かに寒性で無毒。少陰経(心経・腎経)、太陽経(小腸経・膀胱経)に入る。小麦の主治として、熱を除き、のどの渇きを止めて利尿する。心の気を養う。心病は小麦を食べるとよい。

また、茶について、『本草綱目』には果部にあり「茗」として記載があります。

茶は苦、甘、微寒、無毒で、利尿し、痰熱を去り、渇きを止める。茶は寒性と苦みで、手厥陰心包経と足厥陰肝経に入る。茶は苦味・寒性で陰中の陰であり、沈にして降であり、もっとも火を降ろす。

頭痛の処方である川芎茶調散には、茶が配合されています。緑茶は、夏が近づく八十八夜に摘まれ、苦味で体を冷やし、頭をすっきりさせて利尿します。

他にこの季節におすすめの食材はゴーヤとラッキョウです。

中国・清代の温病学の大家、王士雄の『随息居飲食譜』には、苦瓜(ゴーヤ)について「苦味・寒性で熱を除き、目をすっきりと明るくさせ、心熱を清(さ)ます」と記されています。苦味は心に作用します。

ラッキョウは薤白(がいはく)という生薬で、括蔞薤白白酒湯(かろがいはくはくしゅとう)という胸痛の漢方処方に配合されます。
ラッキョウは五菜(韮・薤・葵・葱・藿)で心の野菜です。サポニンが多く含まれ、強い抗酸化作用があります。サポニンには軽い強心作用や心保護作用があります。

2024年7月24日「抗酸化剤および抗がん剤としてのネギ属植物の可能性」
Alliums as Potential Antioxidants and Anticancer Agents
Kanivalan Iwar et al.
Int J Mol Sci. 2024 Jul 24;25(15):8079.
※ラッキョウの葉と球根には、サポニンが高濃度で含まれていることが実証されている。

Many thanks to miz@ for a beautiful featured image!

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

目次