【BOOK】『ピークアウトする中国「殺到する経済」と「合理的バブル」の限界』

2025年3月30日

『ピークアウトする中国「殺到する経済」と「合理的バブル」の限界』
梶谷懐 (著), 高口康太 (著)
文藝春秋 (2025/1/17)

目次
第１章　中国の不動産市場に何が起きているのか？
第２章　ポストコロナの不動産危機
第３章　新型都市化と不動産リスク
第４章　中国不動産市場と「合理的バブル」
第５章　中国社会を覆う悲観論
第６章　地方政府はなぜ財源不足に苦しむのか
第７章　「殺到する中華EV」は中国経済を救うのか
第８章　不動産バブルと過剰生産のゆくえ

2025年1月中旬に出版された良書です。

中国経済は統計の信頼性の問題があるため、おそらく中国政府の「中のヒト」でさえ現状を正確に把握しきれていないという問題があります。梶谷懐さんは、世界中の中国経済の専門家・経済学者の議論を引用しながら、経済学の研究を基礎として非常に説得力のある中国経済の実情を論じています。

ジャーナリストの高口康太さんは、中国の幽霊タワマンの墓場など、中国不動産市場の崩壊の現状を足を運んで確認しています。中国政府はバブル経済処理のために「中国共産党幹部の間で、日本の経済学者・竹中平蔵を読むのがブームになっている」というブラックジョークのようなエピソードもあります。

本書で梶谷さんは中国政府の合理的バブル経済を誉めるところは誉めつつ、中国国内市場の内需不足という構造的問題を浮き彫りにしていきます。読んで感じたのは、「中国のバブル経済崩壊は日本の1990年代のバブル経済崩壊によく似ていながらも、中国の政治状況や14億人を抱えていること、若者の20％以上が失業者などより深刻な状況にあるということです。

習近平は2013年に一帯一路を提唱しました。2018年以降、米中貿易戦争が起こり、2020年に中国政府は双循環を提唱しました。双循環とは、海外市場に投資して中国国内とのサプライチェーンを構築し、中国国内の市場を拡大しようというものです。2024年のBRICSと西側世界の現状を見る限り、この戦略は悪くない印象でした。しかし、本書を読むと中国経済の限界が見えてきました。

第二次トランプ政権の政策を見る限り、アメリカ・ファースト戦略の通りに情勢が動いています。これは中国との新冷戦に勝利するために米国が推進してきた自由貿易体制・新自由主義を逆転させることです。長期的に、中国での政治経済的不安定さが日本にどれだけ影響を及ぼすのかと思ってしまいます。特に鍼や灸の道具のサプライチェーンは心配です。

2024年「はり又はきゅう用器具の国内市場規模」
宮崎彰吾, 大澤真, 脇英彰
『全日本鍼灸学会雑誌』2024 年 74 巻 4 号 p. 336-342

※「2022（令和4）年における主な輸入国は、中華人民共和国（15億9864万8千円)」
※「最も輸入金額の大きいものは「滅菌済み鍼」の15億2357万3千円（93.5%）」

2022年の時点で、日本は中国から滅菌済み鍼を15億円輸入しています。また、灸のモグサの原料の9割は中国から輸入していたと思います。

中国は自由貿易体制を支持すると予測しているので、中国が望んで供給を止めることはないと思いますが、政治経済的な事情でサプライチェーンの混乱が起こる可能性は考えられます。コロナ禍での鍼や消毒器具の不足は記憶に新しいです。漢方生薬と同じく、鍼灸産業を持続可能にするには、サプライチェーンの安定化は不可欠です。

私が鍼灸学生だった頃は銀鍼の時代で、1本1本が高価でオートクレーブで消毒して使用していました。使い捨てのディスポーザブル鍼が発売され、中国からの輸入で鍼が飛躍的に安価になりました。しかし、2019年以降コロナや戦争でサプライチェーンが大きく傷つき、世界的なインフレが起こりました。

鍼灸関連の商品の欠品は増えており、2020年7月で『医道の日本』が休刊し、鍼灸の専門書の出版点数は激減しました。東洋医学の良書は古本市場にありますが、この古本屋システムもあと何年持つかと思います。鍼灸や東洋医学が時代の転換を乗り越えることは確信していますが、今後、教育システムと業界構造がどう変化していくかについては不透明です。

2025/03/08　YouTube
柯隆
「トランプ関税でさらに中国は”氷河期”突入か!? 中国政府が2025年経済目標を発表、「全国人民代表大会」からわかる中国経済の未来を徹底解説!」

　『中国不動産バブル』の著者で、東京財団政策研究所主席研究員で中国経済専門エコノミストの柯隆さんによる2025年全人代の後の中国経済の分析です。非常に冷静でわかりやすく、『ピークアウトする中国』の分析と一致する部分が多いです。