イヌとヒトの脳のシンクロナイゼーション


2024年10月23日『ITメディア』
「人と犬の目が合うとき、脳が同期する──中国チームが発表 ビーグルとの交流時の脳波を計測」

以下、要約して引用。

中国科学院の研究者たちは、犬と人間が交流している際の脳波を同時に測定し、両者の間に神経活動の同期が生じることを調査し、その結果、犬と人間の間に神経活動の同期、特に前頭葉と頭頂葉の領域で強い同期が観察された。

アイコンタクトの際には前頭葉で、触れ合い(なでる行為)の際には頭頂葉で、より強い同期が見られた。

この神経活動の同期は交流を重ねるにつれて強まっていった。これは、人間と犬の関係が深まるにつれて、神経レベルでの結び付きも強くなることを示唆している。

情報の流れに関する分析では、人間から犬への方向性が明らかになった。これは、人間が「リーダー」的役割を、犬が「フォロワー」的役割を担っていることを示唆しており、人間と犬の社会的関係の神経基盤を反映していると考えられる。

自閉症スペクトラム障害の高リスク遺伝子を持つ犬(Shank3変異犬)では、健康な犬で見られたような人間との神経活動の同期が失われていた。幻覚剤として知られるLSDを単回投与することで、Shank3変異犬と人間の間の神経活動同期が大幅に向上し、注意力も改善された。この結果は、LSDがASDの社会的障害を改善する可能性を示唆している。



2024年9月11日『アドバンスド・サイエンス』
「自閉症に関連するShank3変異犬におけるヒトと犬の脳内神経結合の破壊」
Disrupted Human–Dog Interbrain Neural Coupling in Autism-Associated Shank3 Mutant Dogs
Wei Ren et al.
Advanced Science First published: 11 September 2024


人間同士が親しくなると、脳の同期は増加します。ヒトとイヌの場合、視線と動物を撫でることが脳結合を促すようです。

これは、マッサージ師や鍼灸師の視点から興味深いです。以前、予約が半年先まで一杯の臨床心理士が講義で「本当はいけないことだけど、裏技として、どうしてもこころを開いてくれないクライアントの肩にそっと手を置いたり、手と手を重ねた瞬間にこころを開いてくれたことが何度もあります。しかし、これは異性間だとセクハラになるリスクが高いので、本当は使ってはいけない裏技の中の裏技です」と言われていました。鍼灸マッサージ師になった後で、「鍼灸マッサージ師は、臨床のたびに、カウンセラーの先生が言う『こころをひらかせる本当は使ってはいけない必殺技』を毎回使っている」と思ったことがあります。


また、面白いのは、イヌとヒトだと、ヒトがリーダーでイヌがフォロワーの関係で情報が流れることです。人間同士でも社会心理学者が大企業の会議室にビデオカメラを仕掛けて分析すると、A案を押している派閥と、B案を押している派閥は、それぞれヒトの行動がシンクロし、リーダーの姿勢(腕組みやうなずき)をフォロワーが真似ます。インターネット世界でもインフルエンサーの行動をフォロワーが真似ます。

鍼灸師でいうと、鍼灸師が心身ともに健康であるから、患者さんは健康な鍼灸師の心身に脳がシンクロして健康になるということです。「患者から邪気をもらった」という鍼灸師は「自分は鍼灸師として未熟者だ」と言うに等しいです。

サイコセラピーの言葉に身体性逆転移というものがあります。患者さんの心身の不調である吐き気やうつや不安が治療家の体に身体的共鳴を起こす現象です。これは、患者が治療のリーダーで、施術者がフォロワーとして脳がシンクロした現象だと思います。

自閉症スペクトラム障害のイヌの実験も興味深いです。自閉症スペクトラム障害の特徴は、人と視線を合わせることができないことと、人に体を触られるのを嫌がることです。AIマッサージロボットが開発されると仕事がなくなってしまうと心配される方がいますが、一定の需要があり、現在の客層とは被らないのではないかと思います。

また、ティモシー・リアリーやリチャード・アルパートは「LSDを使うと、他人と新しい関係を築ける」と提唱してヒッピー文化に影響を与えましたが、LSDを使っても気分が悪くなるだけの人もたくさんいたことが記録されています。他者と脳をシンクロするのにLSDを必要としなかったからだと思います。

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