2019年1月21日
カリフォルニア大学アーヴァイン校ザミュエリ統合医療研究所
『フロンティア・イン・ニューロサイエンス』に発表した論文
「灸は視床下部『室傍核』を通じた交感神経刺激性の循環器血管反射を調節する」
Moxibustion Modulates Sympathoexcitatory Cardiovascular Reflex Responses Through ParaVentricular Nucleus
Ling Cheng et al. Front. Neurosci., 21 January 2019
カリフォルニア大学アーヴァイン校ザミュエリ統合医療研究所は、2017年にフォーブスの富豪ランキングに入るIT長者スーザン・ザミュエリさんが作った学校で、AIやビッグデータ、ゲノム解析などのハイテクと代替補完医療を統合するというヴィジョンを掲げています。
以下、引用。
【展望と要約】
この結果から、(43℃以上の)温度依存性の足三里(ST36)への灸刺激は、末梢感覚神経におけるTRPV1受容体を活性化し、視床下部『室傍核(PVN)』の神経活動をオピオイド・システムを通じて減少させ、そして、交感神経刺激性の循環器血管反射反応を減少させる。この足三里(ST36)の電気刺激による循環器血管反射反応の減少と灸によるものは、異なる末梢メカニズムを通じて起こる。この観察は、電気鍼・手技鍼と灸が異なる感覚ニューロンの活性化を通じて、同一の中枢神経プロセスを通じて交感神経反応を減少させることを示している。
TRPV1受容体はカルフォルニア大学サンフランシスコ校のジュリアス先生や富永真琴先生らが1997年にカプサイシン受容体として『ネーチャー』に最初に報告しました。
The capsaicin receptor: a heat-activated ion channel in the pain pathway.
Caterina MJ, Schumacher MA, Tominaga M(富永真琴), Rosen TA, Levine JD, Julius D.
Nature. 1997 Oct23;389(6653):816-24.
TRPVはTransient Receptor Potential Vanilloidを省略した用語です。Transientは「一過性の」という意味で、受容器電位(レセプター・ポテンシャル )が一定しないという意味です。バニロイドとはバニリル基を持った化合物のことで、カプサイシンやバニリンを含みます。 トウガラシの主成分であるカプサイシンは辛味と共に痛みを引き起こします。TRPV1は皮膚のケラチノサイト、感覚神経末端、脳、内臓でも多く確認されている受容体です。
TRPV1受容体は43度以上の温度、侵害刺激、酸、電圧などに刺激されます。 侵害刺激やカプサイシン刺激で細胞膜にあるTRPV1受容体が活性化され、イオンチャネルが開口し、カルシウムイオン(陽イオン)が細胞内に流入すると脱分極が引き起こされ、活動電位が発生します。ショウガで熱感が生じるのはTRPV1受容体の働きです。
鍼による結合組織の歪みや43℃以上の温熱刺激、生姜灸、電気鍼などの物理刺激を電気信号に変換して神経に伝達します。
TRPV1受容体アゴニスト(刺激薬)であるカプサイシン軟膏は糖尿病性神経障害や帯状疱疹後神経痛の治療薬として応用されています。
鍼の研究は鍼麻酔(鍼鎮痛)に代表されるように盛んに行われていますが、灸のこのような研究は珍しいと思います。
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