【新型コロナウイルス】社会的距離のコスト

 

2020年3月24日『МITテック・レビュー』
『 新型コロナ後の世界はどう変化するか?:新型コロナウイルス感染症の拡大を防ぐために多くの国で、人と人が接触する機会をできるだけ減らす社会距離戦略が実施されている。「普通の生活」には戻らないかもしれない。』

 

 

 

この図表を初めて見る方も多いのではないでしょうか。イギリスが修正して採用した社会的距離戦略は、例えば2カ月間は社会的距離を継続し、ICU入院患者数が低下したら1カ月解除し、流行が始まったらまた2カ月封鎖します。これを2021年の11月まで18カ月間継続します。

以下、引用。

世界のどこかに新型コロナウイルス保有者が存在したら、厳格な規制で封じ込めない限り、アウトブレイクは繰り返し発生する可能性がある。実際、何度も繰り返し発生するだろう。インペリアル・カレッジ・ロンドンの研究者は3月16日、封じ込めの方法を提案する報告書を公表した。その方法は集中治療室(ICU)の入院患者数が急増し始めるたびに思い切った社会距離戦略を実施し、ICUの入院患者数が低下するたびに緩和するというものだ。その過程を示したのが下のグラフだ。

 

オレンジの線はICUの入院患者数の変化を表す。入院患者数がしきい値(たとえば週に100人)を超えたら国はすべての学校とほとんどの大学を閉鎖し、社会距離戦略を実施する。ICU入院患者数が50人を下回ったら社会距離戦略を解除する。ただし、症状のある人やその同居人は自宅での自主隔離を続ける。

 

社会距離戦略とは何だろうか。インペリアル・カレッジの研究者は「すべての世帯が学校、職場、世帯外の人との接触を75%減らす」ことと定義している。これは友人と週4回ではなく週1回外出できるという意味ではない。すべての人が社会的接触を最小限に抑えるようにできる限り努力し、接触機会を全体として75%減らすという意味だ。

 

インペリアル・カレッジの研究者はこのモデルでワクチンが利用可能になるまで社会距離戦略と学校の閉鎖を約3分の2の時間(おおまかに説明すると2カ月実行して1カ月解除)実行する必要があると結論付けている。ちなみにワクチン開発がうまくいった場合でも、ワクチンが利用可能になるまで少なくとも18カ月かかるとされている。さらに報告書は社会距離戦略を実施した場合の結果は「米国でも定性的に類似している」と指摘している。

 

 

つまり、 都市封鎖などの社会的距離戦略は18カ月間続きます。すでにイギリス政府の要人は「6カ月は続ける」と明言しています。

 

2020年3月29日『ガーディアン』
「イギリスのコロナウイルスの制限戦略は、6か月続くと保健庁副長官は述べた」
UK coronavirus restrictions could last six months – deputy chief medical officer

 

ものすごい違和感を感じます。イギリスのボリス・ジョンソン首相とマット・ハンコック保険大臣はコロナウイルス陽性で隔離となり、社会的距離戦略を発案したインペリアル・カレッジのニール・ファーガソン教授もコロナウイルス陽性で隔離中なので保健庁副長官の官僚であるジェニー・ハリーズ医師が説明しています。

5月末から6月末までは社会的距離で外出制限をおこない、5月末から6月末には緩めると述べています。これは インペリアル・カレッジ・ロンドンの計画通りです。しかし、インペリアル・カレッジ・ロンドンの図表では、これを2021年の11月まで2カ月外出制限して1カ月緩めるのを18カ月間も反復する計画が明記してあります。

 

ジェニー・ハリーズ医師が「社会的距離は18カ月間、続く」と正直に伝えないのはなぜなのでしょうか。少なくとも、このやり方はフェアではありません。

 

『МITテック・レビュー』 の記事は重要な指摘をしています。

以下、引用。

 しかし、最終的には疾病リスクのある人を識別する高度な手段を開発し、疾病リスクのある人を「合法的に」区別することで、再び安全な人付き合いが可能になるのではないかと考える。

この先駆けとなる措置がいくつかの国で現在実施されている。イスラエルでは国家諜報機関がテロリスト追跡に利用している携帯電話の位置情報を使い、新型コロナウイルスの感染者とその濃厚接触者の追跡を始めようとしている。シンガポールでは徹底的な濃厚接触者追跡を実施し、確認された感染者に関して氏名以外の詳細なデータを公表している。

テロ攻撃の余波で厳格化する空港セキュリティ検査に人々が適応してきたように、このような対策に適応して受け入れることになるだろう。うっとおしい監視も、他の人と一緒にいるという基本的な自由のために支払う小さな代償とみなされるようになる。

ただし、毎度のことながら、実際の代償は最貧層と最弱者層が負担することになる。医療サービスをあまり利用できない人や病気が発生しがちな地域の住民は他の人が自由に使える場所や機会から締め出されることが増える。ドライバーや配管工、フリーランスのヨガインストラクター、多岐にわたるギグワーカーの仕事はさらに不安定になる。移民、難民、不法滞在者、および前科のある人にとっては新たな障害となり、社会で足場を築くのがますます困難になる。

さらに、疾病リスクの評価方法について厳格なルールがない限り、政府や企業は評価基準を自由に選択できる。たとえば、ハイリスク要件として年収5万ドル未満、家族構成6人以上、特定の地域居住者などを指定できる。そして偏向したアルゴリズムと隠れた差別の余地が生まれる。たとえば昨年、米国の健康保険会社が利用するアルゴリズムが意図せず白人を優遇することが発覚したように。

これまで世界は何度も変化してきた。そして今また、変化している。私たちは皆、新しい生き方、働き方、人間関係構築方法に適応する必要がある。しかし、他のすべての変化と同様に、すでに多くを失いすぎているのにさらに多くを失うことになる人たちが存在する。望まれる最善の結果は、今回の危機の深刻さが引き金になり、最終的に国家が多数の国民を極めて脆弱な状態に陥れる大きな社会的不平等の修正に向かうことだ。

 

社会的距離戦略は社会的に弱い立場の人々、貧しい人々に負担を強います。社会的距離戦略の採用は、私には20世紀に失敗した社会主義や全体主義を復活させたようにしか思えないのです。全体の利益のために、個人の自由や人権を制限する社会です。

集団免疫戦略は確かにハードランディングでギャンブルかも知れませんが、社会的距離戦略もインペリアル・カレッジ・ロンドンの論文を読むと十分にギャンブルであり、医療崩壊を防ぐことができると信じることができません。

社会的距離戦略が有効であるというエビデンス自体が弱く、社会的距離戦略が失敗して結果的に集団免疫戦略になると個人的に予測しています。その場合、失われるものは集団免疫戦略よりはるかに大きいです。情報をフェアに開示することが必要です。

 

 

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