耳介迷走神経刺激

 

 

2018年6月「ポリヴァーガル理論の耳介鍼への応用」
Application of Polyvagal Theory to Auricular Acupuncture.
Oleson T.
Med Acupunct. 2018 Jun 1;30(3):123-125. doi: 10.1089/acu.2018.29085.tol.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6011378/

米国における耳鍼研究の権威であるテリー・オルセン博士が発表された論文です。ポリヴァーガル理論とは、ノースカロライナ大学医学部の著明な教授であるスティーブン・ポルゲス先生が提唱した迷走神経に関する理論です。

 

2012年に画期的な耳鍼による迷走神経刺激法が開発されました。

2012年
「耳鍼は、副交感神経システムを活性化させることで、テンカン発作を抑制するのかもしれない:仮説にもとづく画期的な方法」
Auricular Acupuncture May Suppress Epileptic Seizures via Activating the Parasympathetic Nervous System: A Hypothesis Based on Innovative Methods
Wei He, et al.
Evid Based Complement Alternat Med. 2012; 2012: 615476.
Published online 2012 Feb 1. doi: 10.1155/2012/615476
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22461842

 

もともと西洋医学の分野でも耳介迷走神経刺激は1989年から開始され、1990年代にはてんかんの迷走神経刺激法が開発されていました。2000年から日本でも保険が適用されています。

「てんかんの迷走神経刺激療法」
川合 謙介『臨床神経学雑誌』

 

ラファエル・ノジェ先生の耳鍼セミナーを受講した際、ノジェ先生から「耳の解剖学的特徴は? 何か気づきませんか?」と質問されました。私は「耳の一部の神経支配が迷走神経であることです」と答えて、ラファエル・ノジェ先生にお褒めいただいたことがあります。自慢です。

 

外耳の心や肺や肝や腎などの耳穴のあたりは迷走神経支配です。アメリカ鍼灸を代表する鍼の薬物中毒プログラム、NADAプロトコルでは肺、神門、交感、肝、腎の5穴が使われます。下図の緑色の部分は迷走神経支配であり、肺、肝、腎の鍼は迷走神経刺激となります。

 

1973年頃、黒人解放運動のブラックパンサー党に協力していたニューヨーク、サウスブロンクスのリンカーン病院の医師、マイケル・スミス先生がドラッグ依存症に対してメサドンの代わりに中国式の耳鍼を用いました。最初は中国式耳穴の「肺」のツボのみを使っていましたが、精神安定作用のある中国式耳穴の「神門」が加えられ、試行錯誤して現在のような「肺」「神門」「交感」「肝」「腎」の5穴に刺鍼するNADAプロトコルとなりました。

 

2017年にシンガポールで行われた国際耳介療法シンポジウムの話題の中心は耳と迷走神経支配のことでした。テリー・オルセン博士は先に挙げた論文で耳介迷走神経刺激について論じています。

 

西洋医学の分野でも、鍼ではなく電気刺激(TENS)を使った経皮的耳介迷走神経刺激という全く新しい治療法が開発されています。

 

整形外科医であるポール・ノジェ博士は1966年頃まで腰痛や座骨神経痛、膝痛や頚部痛などの筋骨格系疾患の耳鍼はしていましたが、マップの中に内臓のポイントはなかったそうです。フランス耳介医学で内臓のポイントが探求されるのは1966年以降のようです。
NADAプロトコルの開発前、鍼麻酔ブームの1973年に『アメリカン・ジャーナル・オブ・アキュパンクチャー』に香港の脳神経外科医で鍼麻酔に影響された温祥来医師と医学生の張さんが耳介への鍼の電気刺激によるヘロイン中毒の治療を発表しました。

1973年「ドラッグ依存症の電気鍼刺激による治療」
Treatment of drug addiction by acupuncture and electrical stimulation.
Wen H. L., Cheung A. Y. C.
American Journal of Acupuncture 1973;1(2):71–75. 77

これを読んだブラックパンサー党のマイケル・スミス先生が鍼治療を薬物中毒の治療に応用してNADAプロトコルが生まれました。さらに、ニューヨークの開業医、ロバート・ギラー先生が体重減少に耳鍼を使い、耳の「胃」「肺」「飢点」を用います。

 

ギラー先生の耳鍼による痩身の論文は、1975年11月号の『医道の日本』に邦訳が掲載されています。飢点は1972年の中国人民解放軍・南京某部隊の『耳針』に初出していますが、現代の中国政府の国家標準『耳穴名称与定位(WFAS:2013)』には掲載されておらず、番号もありません。飢点は耳屏に存在し、腎上腺と外鼻の間にあります。

 

耳穴、胃も迷走神経刺激をするツボになります。

「耳針法と体重減少対照研究」
ロパート・M・ギラー 『医道の日本』 1975年11月 p3~5
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/3355077/21?viewMode=

 

1976年にアメリカ、ニューヨーク大学のフランク・ウォーレン先生は『鍼ダイエット:体重減少と耳鍼についての真実』という文献を出版していています。

1976年『鍼ダイエット:体重減少と耳鍼についての真実』
The Acupuncture Diet: The Truth About Weight Loss and Ear Acupuncture.
Frank Z Warren
St. Martin’s Press (Sept. 1976)

 

このあたりから欧米における耳鍼の臨床応用は薬物中毒や体重減少や禁煙が中心となってきます。面白いのは、マイケル・スミス先生が中医学の弁証論治理論から最初に肺、次に神門を加えて、経験を積んで交感、肝、腎とツボが増えていき、耳介迷走神経刺激が強くなったことです。

 

現在の耳介迷走神経刺激の西洋医学的研究を読んでいると、迷走神経刺激は明らかにうつや恐怖、不安に対して効果があるという印象があります。最近の耳鍼は、歯科や外科の手術前の不安をやわらげたり、鎮痛したり、PTSDに使われています。まさにうつや恐怖、不安の分野です。

 

 

 

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