2017年「『諸気膹鬱みな、肺に属する』鬱証の肺からの論治」
从“诸气膹郁,皆属于肺”探讨郁证从肺论治
常乐 李泽庚 王婕琼
《中国民族民间医药》 2017年02期
筆者は鬱証を宣肺疏肝法を応用し、潤肺養陰、宣肺逐痰法で肺気を回復させて治療してきた。肺は魄を蔵し、これは注目に値する考え方である。
この数年、毎年、秋になると「秋うつ」と「肺は魄を蔵し、秋は悲しみや憂いがでやすい」と書き続けてきました。臨床的実感から秋=肺=欝の関係を感じていたからです。関西中医鍼灸研究会でも「秋に鬱が多い」ことは季節病を研究する鍼灸師の間で10年以上前から議論になってきました。「春の肝鬱」ではなく「秋の肝鬱」です。
私は「秋に肝鬱が多くなるのは確かだが、イライラ・易怒など肝の特徴がなく、鼻水や肺気虚の特徴を持ち、補肺気やカゼの治療のような宣肺の治療で改善するプチうつは肺の魄の問題ではないか」と考えてきました。
中国のデータベースCNKIで調べると鬱を肺から治療する論文が山ほどあり驚愕しました。「肺鬱」という造語までありました。
1987年「情志の変化と肺鬱」
谈情志之变与肺郁
唐学游
《安徽中医学院学报》 1987年01期
CJFDTOTAL-AHZY198701001.htm
2011年「うつ病と肺からの治療」
抑郁症从肺论治
杨建 颜红
《天津中医药》 2011年03期
http://www.cnki.com.cn/Article/CJFDTOTAL-TJZY201103023.htm
2011年「宣肺解鬱法によるうつ病治療の意義」
试述宣肺开郁法指导治疗抑郁症的意义
傅丽 杨继兵
《辽宁中医药大学学报》 2011年05期
http://www.cnki.com.cn/Article/CJFDTOTAL-LZXB201105113.htm
2014年「うつ病を肺から治療する」
浅论郁证从肺论治
杨建 高莹 颜红 高雅 沈莉
《辽宁中医杂志》 2014年10期
http://www.cnki.com.cn/Article/CJFDTOTAL-LNZY201410034.htm
探讨郁证从肺论治的可行性。研究发现郁证患者中肺郁的比例较高,情志病与呼吸系统关系密切
2017年「うつ病の肺からの病機の研究」
郁证“从肺”病机探析
王珑 李冬杰 王翠娟 张迪 孙忠人
《中华中医药学刊》 2017年05期
http://www.cnki.com.cn/Article/CJFDTOTAL-ZYHS201705008.htm
まさか中国に自分と同じように「肺からの鬱」と弁証して宣肺解鬱という治則まで考えている中医師がこんなにいるなんて想像の外でした。
しかも、『素問・至真要大論篇』の「諸気憤鬱、皆、肺に属する」を引用しています。
《素问·至真要大论》:
“诸气膹郁,皆属于肺。”
「肝気鬱結」の歴史を調べてわかったのですが、古代の鬱証は肺など肝以外の臓に属していました。金元四大家、劉完素も「諸気憤鬱、皆、肺に属する」です。ところが、明代の趙献可や清代の汪昻が「木鬱を治療すればほかの全ての鬱は治療できる。これは逍遙散である」と主張し、木鬱=肝鬱=全身のウツを疏肝理気で治療するようになりました。
私は自分の経験から肺鬱や秋鬱を分析しましたが、中国の少数派の中医師たちが全く同じことを発表しているのに本当に驚きました。しかも、中医学の登場以前の中国伝統医学の古典理論と結びつけています。私は秋鬱理論のためにヨーロッパ伝統医学の秋のメランコリー(憂鬱)も研究しましたが、よく考えたら中国伝統医学の歴史は『素問』以来、ずっと「諸気憤鬱、皆、肺に属する」であり、「鬱=肝鬱」みたいになったのは1950年代であり、2000年のうち「肝鬱」理論中心の時代は60ー70年程度なのです。
このような認識の一致があるのは、中医学古典と弁証論治という共通の理論的土台があるからです。中国の少数派の理論家は要注目だと感じました。かなり先を歩いている感があり、学ぶべきものが多いです。中国伝統医学の良いところは理論に発展性があり、新しい現実に対応できるところだと思いました。
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