梅核気と鉄欠乏

 

 

「梅核気に対する半夏厚朴湯の作用機序―ケミカルインバランスからの考察―」
斎藤尊之

『日本東洋醫學硏究會誌』第四巻 (2018)
(↑オープンアクセス)
 
 
以下、引用。
 
咽喉頭異常感症は鉄欠乏性貧血を主徴とする Plummer-Vinson 症候群の初期の症状として咽喉部や食道入口部にさまざまな異常感を有することから鉄欠乏性貧血と関連づけた報告が数多くあり、鉄欠乏を除去する ことにより症状の消失や改善されることも報告されている。
 
鉄が不足した時の臨床症状として、いらいら、集中力低下、神経過敏、些細なことが気になる、立ちくらみ、めまい、耳鳴り、片頭痛、疲れ、節々の痛み、喉の違和感、冷え性、レストレスレッグス症候群、異食症が特徴である。この症状は半夏厚朴湯の多くの症状と重なっていることから半夏厚朴湯と鉄との関係性が深いことが伺える。
 
交感神経の緊張が解かれ、胃液分泌や胃腸の吸収促進に働く副交感神経を上げることにより、鉄吸収や鉄利用能を向上することによって鉄欠乏性貧血の症状が改善されるものと考えられる。
 
半夏厚朴湯も過緊張な交感神経を緩める作用の報告があり、苓桂朮甘湯と同様に交感神経と副交感神経のバランスを取るように働き、梅核気の症状を消失軽減していると推測できる。
 
 
 
鉄欠乏からのプランマー・ヴィンソン症候群は、嚥下困難・舌炎・貧血を主徴とする疾患です。梅核気を鉄の欠乏として分析するのは、まったく新しい視点で勉強になりました。半夏厚朴湯を自律神経のバランス調整を通じて結果として鉄吸収を改善するという視点も新鮮でした。わたしは鍼灸で即座に軽減するタイプの梅核気しか経験しておらず、鉄欠乏型の梅核気にはまだ出会ってないのですが、いつ出会ってもおかしくないと感じました。
 
 
2018年の斎藤先生の論文以前にも同じ切り口の研究が存在します。
 
「咽喉頭異常感症-血清鉄との関連について-」
柳田 則之, 石田 和也, 浅見 清孝
『耳鼻咽喉科臨床 補冊』
1988 年 1988 巻 Supplement23 号 p. 110-115
 
 
プランマー・ヴィンソン症候群は1912年にプランマー、1919年にヴィンソンによって報告されました。
 
 
1990年「Plummer-Vinson症候群」
丘村 煕, 末光 清貞, 稲木 匠子
『耳鼻咽喉科臨床』1990 年 83 巻 2 号 p. 180-181
 
※『P-V症候群は40歳以降の中年女性に好発する。 固形食や水分の少ない食塊の嚥下困難が特徴的な愁訴で、しばしば嚥下痛を伴う。舌は乳頭の萎縮により平坦化し、表在性舌炎の形をとり、口角炎合併の頻度も高い。
 
 
1981年「咽喉頭異常感の診断システムとPlummer-Vinson症候群」
宮原 裕, 里見 真美子, 佐藤 武男
『日本気管食道科学会会報』
1981 年 32 巻 1 号 p. 12-20
 
※咽喉頭異常感をきたす疾患としては、過長茎状突起、頸椎の異常、慢性咽喉頭炎と少数ながら悪性腫瘍(喉頭、下咽頭、上部食道など)などが存在する。
 
 
海外の文献の症状は、めまい、眼球結膜と顔面の蒼白、口腔粘膜の紅斑と灼熱感、呼吸困難、舌の萎縮と扁平、口角の亀裂です。

 

 

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