「疼痛部位の違いが心理状態に及ぼす影響について」
田中真一、et al.『西九州リハビリテーション研究』 7, 27-29, 2014
以下、引用。
Cho CH ら(2013)は肩の慢性痛患者は不安が強く睡眠障害に陥っていることを報告しており、Keef FJ ら(2000)もまた変形性膝関節症の患者は反芻や無力感などの破局的思考に傾いていることを報告している。
上肢や体幹、下肢は ADL においてそれぞれ異なる役割を担っているため、痛みが ADLに及ぼす影響はその疼痛が存在する部位によって異なると考えられ、さらに有痛部位によって心理状態も異なる可能性がある。
よって本研究では肩、腰、膝いずれかの慢性痛患者を対象に疼痛強度と心理状態を調べ各疼痛の部位別に比較検討するとともに、疼痛強度と心理状態との関連性について検討した。
腰痛患者の特徴として抑うつや不安、社会生活への適応障害などを有し、心理社会的要因が影響している(松原ら 2012)。
疼痛部位と心理状態に関する研究は西洋医学でも2000年代から出てきています。
長谷川敦史先生は『腰痛は怒りである』(2002年)を出版されましたが、現在ではNHK腰痛治療革命の放送でようやく腰痛の一部は心理的原因で起こることが認知されてきました。
腰痛に対する認知行動療法も日本でようやく認められてきました。
しかし、わたしが観察した限りでは腰痛は「怒り」ではなく「経済的不安や抑うつ状態が原因」という印象があります。
そして頭痛は「怒り」であることが多い印象があります。
そして肩こりも姿勢性のものだけでなく、ストレス要因が関係していることが科学的研究で解明されつつあります。
「肩がこる本」と「肩がこらない本」という日本語表現のとおり、肩こりはストレスや抑うつ状態とも関連します。
2016年論文
Potential risk factors for onset of severe neck and shoulder discomfort (Katakori) in urban Japanese workers
「日本の都市部労働者の深刻な頸部と肩の不快感(肩こり)の潜在的リスクファクター」Takayuki SAWADA,et al.
Ind Health. 2016 May; 54(3): 230–236.
Published online 2016 Jan 30. doi: 10.2486/indhealth.2015-0143
女性であること、短い睡眠時間と仕事による抑うつ気分は明らかに深刻な肩こりと関係していた。
2014年
Risk factors for low back pain and katakori: a new concept
「腰痛と肩こりの実態,危険因子と新たな視点に立った解釈案」
松平浩 et al.『日本臨床』 72(2), 244-250, 2014-02
精神社会的ストレスは、脳の機能障害のひきがねとなり、ウツ病と身体化(肩こり)を引き起こす。
肩こりは仕事のストレスや短い睡眠、抑うつ気分と関連しています。
また、五十肩は「肩の荷が重い」状態であることが多いし、膝痛や下肢痛は「前に進みたくない」心理状態であることが多いです。
慢性疼痛が急性疼痛とまったく違う病態であることがようやく認識されてきました。
その差異の一つとして、慢性疼痛患者は破局的思考を持っていることがわかってきました。
破局的思考による疼痛の慢性化を意味する「ペイン・カタストロフィジング(Pain catastrophizing)」という専門用語はウィキペディア英語版にも載っています。
痛みに対する不安や恐怖が極度になってしまった状態の患者さんは痛みが慢性化しやすいのです。予言の自己成就という状態です。
特に変形性ひざ関節症の患者さんは破局的な思考からの慢性疼痛を持っていることが多いです。
2009年
Pain Catastrophizing and Pain-Related Fear in Osteoarthritis Patients: Relationships to Pain and Disability
「ペイン・カタストロフィジングと、変形性関節症患者の痛みに関連した恐怖:痛みと機能障害との関係」
Tamara J. Somers,
J Pain Symptom Manage. 2009 May; 37(5): 863–872.
Published online 2008 Nov 28. doi: 10.1016/j.jpainsymman.2008.05.009
「破局的思考」は、痛みの慢性化の予測因子となります。
頭痛・肩こり・腰痛・膝関節痛は、いずれも、一定の割合で、心理状態と関連はあると感じます。
他の病気も、症状ごとに、ある心理状態と関連がある場合もあります。
1993年にルイーズ・ヘイさんが書いた『ライフ・ヒーリング』は、それぞれの症状と心理について書かれた最初の本だと思います。
『ライフ・ヒーリング 』
ルイーズ・L. ヘイ たま出版; (1993/11)
ドイツの心理学者トアヴァルト・デトレフゼンさんの『病気が教えてくれる病気の治し方(Krankheit als Weg=方法としての病気)』も、 それぞれの症状と心理を研究しています。
『病気が教えてくれる、病気の治し方―スピリチュアル対症療法』
トアヴァルト・デトレフゼン 柏書房 (2004/11/1)
カナダ、ケベック州フランス語圏のリズ・ブルボーさんの『自分を愛して(Ton corps dit : “Aime-toi !”:からだの声を聞いて、自分を愛して)』は、身体症状と心理の百科事典のような構成の本です。
『自分を愛して!―病気と不調があなたに伝える〈からだ〉からのメッセージ』
リズ・ブルボー ハート出版 (2007/10/31)
ただ、所属する文化が明らかに病気に影響しているようです。だから「この病気=この心理状態」では決してないのですが、肩こりや変形性ひざ関節症という病気を理解する一助にはなります。
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