『みんなの民俗学 ヴァナキュラーってなんだ? 』
島村 恭則
平凡社 (2020/11/16)
この本は、めちゃくちゃ面白いです。
民俗学、ヴァナキュラー文化の最高の入門書だと思います。10代の頃に読みたかったです!
喫茶店モーニングや円盤餃子やじゃじゃ麺などのB級グルメの歴史調査から妖怪アマビエまで、関西学院大学社会学部の学部生たちの卒業論文を引用し、「一般読者に民俗学の楽しさを伝えたい」という著者の意図が伝わってきます。
フォークロアとは「民衆(folk)」の「伝承・口承(lore)」ですが、特に消防団員や水道局員、裁判官などのフォークロア収集が面白かったです。
裁判官は職場の飲み会で、先輩裁判官から後輩裁判官に教科書やマニュアルに絶対にでていないこと、 例えば「このマニュアルのこの部分は信用できるが、この部分は信用できない」といった暗黙知が口頭伝承されていたそうです。
日本はもともと二重の文化教育システムでできています。学校では最小限の内容を薄い教科書で習い、受験に役立つ貴重なノウハウは学習塾で口承されます。大学では、授業以上に、先輩から後輩にサークルや部活で口承される「あの先生の講義はノートさえ書き写せばテストは楽勝」「あのゼミに入れば就職は固い」などの情報が口承されます。職場でも、飲み会や勉強会(派閥)で貴重なホンネや人事に関するウワサや仕事のノウハウや出世のコツが口承されていきます。
ネガティブな面もありますが、ポジティブには後継者を育てる教育の場でもありました。しかし、わたし個人が聞いたところでは、コロナ禍で大学のサークルの口承文化はかなりダメージを受けてしまったように思います。他分野も似たようなものだと推測できます。
2024年の日本の課題は、「いままでオフィシャルと口承の二重システムで行ってきた日本の教育が、オフィシャルだけになったときにどうなるのか」だと個人的に思います。
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