季節性情動障害としての夏季情動障害


2024年7月3日 米科学誌『サイエンティフィック・アメリカン(Scientific American)』
「サマータイム・サッドネス 夏の悲しみは季節性情動障害(SAD)の一種である」
Summertime Sadness Could Be a Type of Seasonal Affective Disorder

1992年に発売されたノーマン・E・ローゼンタール著『季節性うつ病』(講談社1992/5/1)を読んだことを覚えています。


アメリカの精神科医、ローゼンタールは、自身が南アフリカの温暖なヨハネスブルクからアメリカの寒冷なニューヨークに移住し、季節による自分の感情変化を感じたことから、1980年に季節性うつ病の研究をNIH国立衛生研究所ではじめました。

1984年に光療法による冬季うつ病の改善を発表し、世界で最初に季節性情動障害(SAD:Seasonal affective disorder)の概念を発表しました。


1984年ノーマン・E・ローゼンタール
「季節性情動障害:症候群の説明と光療法による予備的知見」
Seasonal affective disorder. A description of the syndrome and preliminary findings with light therapy
N E Rosenthal,et al.
Arch Gen Psychiatry. 1984 Jan;41(1):72-80.


以下、引用。

精神科医トーマス・ウェアとNIHに所属していた精神科医の同僚ノーマン・ローゼンタールは、1980年代初めに周期性冬季うつ病の患者に関する研究に基づきSADという用語を作った。発表後、彼らは夏はうつ病で冬は気分が良くなるという逆の症状を強く主張する人々から予想外の手紙を受け取った。

トーマス・ウェアとローゼンタールのチームは、1987年の症例報告でこれらの報告を調査した。その報告では、夏季にうつ病エピソードを繰り返すパターンを示した12人の患者について説明されていた。



1987年トーマス・ウェアとローゼンタール
「夏季うつ病と冬季軽躁病を伴う季節性情動障害」
Seasonal affective disorder with summer depression and winter hypomania
T A Wehr , N E Rosenthal
Am J Psychiatry. 1987 Dec;144(12):1602-3.


以下、引用。

冬季グループの参加者は「非常に無気力」で、冬眠中の動物に似ていると現在ジョージタウン大学医学部の教授であるローゼンタール氏は言う。対照的に、夏季グループはよりイライラし、落ち着きがないと同氏は付け加える。冬季グループはより頻繁に眠り、食べ過ぎ、体重増加を経験したが、夏季グループは不眠症、食欲減退、体重減少の頻度が高いと報告した。

多くの研究で、冬季SADは日照時間が短く、日光への露出が少ないことと関連付けられており、臨床医は光線療法を潜在的な治療法として提案している。対照的に、夏季SADの主な誘因は熱と湿度であると考えられているとロハン氏は言う。

ワシントン州立大学で心理学の助教授を務め、暑さの心理的影響について研究しているキム・メイデンバウアー氏は、暑さが気分障害や行動に影響を与える可能性があることは複数の研究で実証されていると話す。攻撃性や暴力犯罪が増加するのは、暑い日や夏季によく記録されているとメイデンバウアー氏は言う。最近の研究では、うつ病やその他の精神疾患で精神科の救急外来を受診する人が暑い日にピークを迎えること、暑さが増すと気分がネガティブになる傾向にあること、気温の上昇とともに自殺率が上昇することもわかっている。

夏季うつ病の治療法は十分に研究されていないとローハンは言う。エアコン、冷水シャワー、水泳などで体温を下げると、少なくとも一時的には効果があるという証拠はある。ローゼンタールとウェアによる最初の症例報告では、ウェアがエアコンの効いた家に閉じこもり、定期的に冷水シャワーを浴びるよう勧めたところ、ある患者の気分は改善したが、この治療法をやめてからわずか9日後に再び憂鬱になったと報告した。

直感に反するが、サウナや温水浴槽で高温にさらされると、長期的な緩和効果が得られる可能性がある。臨床試験では、高温のお風呂で治療するとうつ病が改善することがわかっている。これは、短時間の高強度の熱がうつ病患者の休眠状態または機能不全の体温調節システムをリセットするためかもしれないと、臨床心理学者でカリフォルニア大学サンフランシスコ校の准教授であるアシュリー・メイソン氏は言う。メイソン氏は、夏季季節性うつ病の患者が体温調節の問題を抱えている場合、このような温熱療法が特に有効かもしれないと示唆している。



日本では、自殺率と精神科の入院数は3月から上昇しはじめ、5月から7月にピークを迎えますが、6月の梅雨の時期に小さな凹みができます。旧暦の立夏(5月5日頃)から立秋(8月8日頃)の間に精神病が増えるわけです。

季節や気温が精神衛生に関連していることは、ドイツ由来の生気象学が輸入され、さらに東洋医学の伝統がある日本では知られていました。冬季うつ病の患者さんは太陽光に類似した2500ルクス以上の光を一定程度、浴びると改善します。これは東洋医学で分析すると陽虚(陽気不足)であり、陽気を補うと回復すると解釈可能です。

夏季のうつの患者さんは、クーラーに入れたり冷水シャワーを浴びると改善し、イライラや不眠があります。東洋医学で分析すると、夏の心火上炎証や夏の暑熱蒙閉心包証であり、瀉熱すると調子がよくなるわけです。

Many thanks to Abigail for a beautiful featured image!

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