円形脱毛症

2018年6月20日 『朝日新聞』
「円形脱毛症は治療しなくてもいい 学会が指針改定」

以下、引用。

髪の毛などが抜ける「円形脱毛症」。日本皮膚科学会は昨年12月、7年ぶりに改訂した診療ガイドラインでウィッグの使用を推奨し、「治療しないこと」も選択肢にあげた。根本的な治療法がないなか、患者の心身の負担なども考慮し、治療に固執しない考え方があることを示した。

東京都内の大学院生、吉村さやかさん(32)は7歳ごろから後頭部の毛髪が抜け始めた。脱毛が全身に及ぶタイプの円形脱毛症と診断され、半年から1年の間にほとんどの毛が抜けた。
薬だけでなく、鍼やローラーによる刺激といった科学的根拠に乏しい方法も試したが効果はなかった。一時は不登校になったが中学生になってからは周囲も話題にせず楽しく過ごせた。治療からは自然と足が遠のいたという。大学院では現在、社会学を専攻し、調査の一環で円形脱毛症の当事者の聞き取りを続けている。患者が抱える生きづらさの背景を調べている。

「日本皮膚科学会円形脱毛症診療ガイドライン2017年版」
日本皮膚科学会円形脱毛症ガイドライン作成委員会,
『日本皮膚科学会雑誌』127 巻 (2017) 13 号 p. 2741-2762

このガイドラインは鍼灸のプロフェッショナルなら知っておくべきだと思います。
2761ページに「(円形脱毛症に対して)鍼灸治療は有用か?」という問いがあり「推奨度C2:行わないほうが良い」という答えが書かれています。

個人的経験や個別の症例報告なら『医道の日本』や『鍼灸OSAKA』に日本語の文献がいっぱい有ります。

英語文献でも、2015年に韓国が「円形脱毛症の鍼」のシステマティックレビューのプロトコルを事前に『英国医師会雑誌』アキュパンクチャー・イン・メディスンに発表はしていますが、結果が出ていません。

2015年「円形脱毛症の鍼治療:ランダム化臨床試験のシステマティックレビューのプロトコル」
Acupuncture for treating alopecia areata: a protocol of systematic review of randomised clinical trials
Hye Won Lee,BMJ Open. 2015; 5(10): e008841.
Published online 2015 Oct 26.

円形脱毛症は中医学では斑禿(はんとく)、油風(ゆふう)、鬼舐頭(きしとう)と呼ばれています。
日本語では 鬼が頭を舐めると鬼舐頭となります。

鬼剃頭は、隋代の巣元方著『諸病源候論』では風邪(現代では血虚生風)、金代の張子和著『儒門事親』では血熱、明代の陳実功著『外科正宗』では血虚、清代の王清任著『医林改錯』や唐宗海著『血証論』では瘀血として論じられています。
髪は血余と見なされているので、血病が多くなります。

鍼灸治療法としては梅花針(ばいかしん)、耳鍼(じしん)、棒灸=艾状灸(がいじょうきゅう)、生姜マッサージなどが挙げられています。

「针灸治疗斑秃的临床研究进展」

脱毛症全体の西洋医学的病理を研究すると、「これは鍼灸適応なのか?」と思ってしまう病気もあります。

ミノキシジルが効くタイプは血管拡張なので、薬よりは直接、鍼灸をしたほうが効くのではないかと思います。

フィナステリドが効くタイプの男性型脱毛症(AGA)は、フィナステリドには副作用があるので患者さんの価値観の問題になると思います。

西洋医学的な病理から言えば、基本的には自己免疫疾患なので、そんな簡単にいくわけがないと思います。アトピー型が簡単に治るなんて思えないです。

恐怖から脱髪したというPTSDによる脱毛症や抜毛症の場合もあり、ひとすじなわではいかない印象があります。

「円形脱毛症の治験」
出端 昭男『日本鍼灸治療学会誌』24 巻 (1975) 1 号 p. 35-40,70

円形脱毛症を研究していて一番面白かったのは、なんと科学派を代表する出端昭男先生の症例報告でした。

身柱から筋縮の督脈上の圧痛点が円形脱毛症患者さんの特徴だと論じています。これは督脈をつかった治療にこだわる自分としては面白かったです。

科学派を代表する出端昭男先生は、1967年頃に経絡治療の創始者の1人である竹山晋一郎先生と経絡治療の脈診を批判して大論争をしているので、ゴリゴリの科学派の印象があります。※1967年に高橋晄正が『漢方の認識』を出版し、木下晴都・出端昭男の統計派VS竹山晋一郎の経絡治療の脈診をめぐる論争

「六部定位脈診法の実験的研究」
出端 昭男『日本鍼灸治療学会誌』Vol. 17 (1968) No. 3 P 9-12

しかし、出端昭男先生の師である木下晴都先生の大師匠は岡部素道先生であり、お2人とももともとは経絡治療派でした。木下晴都先生と出端昭男先生の著作や論文を読むと、その深い東洋医学の知識に驚きます。

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