推拿と朱子学

2015年4月5日
「朱子(朱熹)の後の200年間に7代の医師として、人生は物質ではなく、趣味にある」
朱熹后人200年间七代为医 人生不在物质而在兴趣

宋代のアジアを代表する哲学者、朱子(朱熹:1130-1200)の子孫の朱鼎先生は、病院の推拿科の主任です。家族からは50人の中医を輩出している家系だそうです。

少林寺から伝わったとされる「一指禅・推拿」の4代目伝承者である朱春霆先生は、毎朝、起きて『易筋経』をされていたそうです。夕食後は、母親がつくった米袋の上で、一禅推を1分間120回のリズムで練習しました。

1956年に朱春霆先生は中国で最初の推拿学校を創り、中国の中医推拿科の泰斗となります。朱鼎先生から遡ること7代はいずれも中医となっています。いまでも机の上には米袋があり、64歳になっても努力をおこたることは無いです。

一方で、書道やアコーディオンや水彩画、スケッチ、歌唱など趣味の造詣も深く、医学についても常に医道や医徳を考え、「もし患者を診る医者が不幸なら、他の人を幸せにすることはできるだろうか?」と問いかけ、素朴な生活と趣味と人生を楽しんでます。

この記事は、本当に素晴らしいです。これこそが私が憧れていた中医の世界です。こんな人を知ることが出来て、中国伝統医学を勉強してきて本当に良かったです。

推拿の流派は多いですが、現在、最も世界で流行しているのは上海の一指禅派であり、こんほう( 㨰法)や一指禅推法という手技が特徴です。

推拿・一指禅派は、1860年頃に清代の李鉴臣という少林寺の武術家で、伝説では清の宮廷の御医だった人物(この時代、清政府は、1822年に太医署で鍼灸を永久に停止する勅命をくだしました!)から始まります。

2代目の丁凤山先生(1843ー1916)に伝えられ、さらに子どもの3代目の丁树山先生(1886ー1931)から、4代目の朱春霆先生(1901ー1990)に伝わりました。

朱春霆(1906-1990)先生は、1936年の『大辞海』に掲載された唯一の推拿医家で、12歳から父親に黄帝内経を読まされ、15歳から臨床し、17歳で丁树山先生に入門し、『易筋経』の気功をやっていたそうです。

1956年に医院に推拿科を創り、1958年には上海中医学院を代表して周恩来にも会っています。この1958年に上海中医学院は推拿部を創りました。いまは5代目の朱鼎先生が一指禅派を継いでいます。

【推拿の流派】

推拿・一指禅派は、1860年頃に清代の李鉴臣という少林寺の武術家から始まります。

2代目の丁凤山先生(1843ー1916)→3代目の丁树山先生(1886ー1931)→4代目の朱春霆先生(1906-1990)→5代目の朱鼎先生に伝わりました。

推拿・袞法派(推拿丁氏流派)は、 初代李鉴臣→ 2代目の丁凤山先生(1843ー1916)→3代目の丁树山先生(1886ー1931)の子どもの丁季峰(1914ー1998)先生が、1940年代に創始しました。

丁季峰(1914ー1998)先生は、1978-1984年に上海中医学院附属岳阳医院推拿科主任を務め、1994年に『推拿大成』を出版しました。

推拿・少林内功派(内功推拿)は、山東省の少林武術家、李樹嘉から馬万起(马万起:1884ー1941)→馬万龍(马万龙1903ー1969)→李锡九に伝わりました。2代目の馬万起は上海で臨床を行いました。

上海の推拿・三大流派のいずれもが少林寺から出ました。そして上海で最初に推拿学が確立され、それが中国と世界に広がりました。

しかし、私の疑問として一指禅推法という手技は中国伝統医学の小児推拿の「推法」とは似ても似つかない手技です。推拿の一番基本の手技である推法の意味が違うので、別系統の医学なのです。

今は上海の推拿流派が世界に広がり、スポーツ選手を治療しています。少林寺の武僧を治していた武術医学・仏教医学はスポーツ選手にピッタリです。

少林寺由来の上海のダイナミックな推拿手技と、「本当の」中国伝統医学の小児推拿のソフトな手技は似ても似つかないです。上海の推拿を推拿の全てだと思い込んでいる人たちは、小児推拿の歴史を何も知らないから誤解しているのだと思います。

日本で推拿をしている人はほとんど全員が上海派であり、ファーストコンタクトが上海推拿なので、他の流派の推拿があることは想像もできません。

わたしが日本トップの按摩マッサージ指圧の名人技術者と思っている先生に袞法(こんほう)と一指禅推法の手技をシェアしたところ、「その2つの推拿の手技はどんな場合に使うのですが? どんな意味があるのですが?」と真顔で聞かれて困りました。ものすごく真面目な先生なのです。

「袞法はローラーを使った方が手を傷めないのではないですか?」
「深部を刺激するなら一指禅推法より鍼を使った方が効率が良くないですか?」
と真面目な質問をされて、答えられませんでした。

「これって、日本の按摩の曲手みたいな意味ですよね?」と聞かれた時が一番キツかったです。

曲手は、昔の按摩さんが「自分はプロの按摩の職業組合で習ったから素人とは違うよ」と魅せるような複雑な按摩の手技です。

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