鍼と磁石

2017年10月1日『メディカルアキュパクチャー』編集長リチャード・ニムツォウ
「鍼と磁石:臨床的役割はあるの?」
Acupuncture and Magnets: Is There a Clinical Role?
Richard C. Niemtzow
Med Acupunct. 2017 Oct 1; 29(5): 255–256.
Published online 2017 Oct 1. doi: 10.1089/acu.2017.29063.rcn

以下、引用。

磁石は鍼のツボを刺激する役割があるのか?
私の同僚で真面目な外傷外科医はバトルフィールド・アキュパンクチャー(戦場鍼)が疼痛を緩和することに感心していた。

著者の リチャード・ニムツォウはバトルフィールド・アキュパンクチャー の開発者であり、 フランス式のノジェの耳鍼で用いる耳用半永久鍼(ASP:Auricular Semi-Permanent needles)をゴールドとシルバーで作り、耳の2箇所に刺すことで電磁気でツボを刺激しています。

リチャード・ニムツォウが最初に バトルフィールド・アキュパンクチャーを論じた論文は、イタリアのルイジ・ガルヴァーニ が鉄と銅という異種金属の接触で生じたガルヴァーニ電流から電気を発見した話から始まります。

医師・生物学者だったガルヴァーニは解剖したカエルの足を銅のフックでひっかけて鉄柵につるし、風で2つの金属が触れると足の筋肉が収縮するところから動物電気を発見しました。それが異種金属の電位差であり、二種類の金属の間にイオンが流出・移動すると電気が流れることを解明したボルタが電池を発明しました。

間中喜雄先生が、金鍼と銀鍼をつかって2MC(Two metal contact:ニ金属接触)によるイオン・ポンピングを発明したのは、この故事によるものです。

イオン・ポンピングの視点から、いろいろな事がわかります。

古代は石製の砭石(へんせき)でしたし、1978年には内蒙古自治区から青銅砭鍼という青銅製の鍼が発見されています。

進化して鍼は金鍼や銀鍼となりました。電気の導電性が最も高い金属は銀・銅・金の順番であり、金鍼や銀鍼は電気を流しやすいのです。

なぜ鍼は竹鍼や石鍼ではなく、金属なのでしょうか? ちなみにステンレスは電気を通しにくい素材のようです。現在の多くの鍼は針柄は電気を通さないプラスチックで、鍼体はステンレス、鍼尖には電気を通しにくい半導体の材料であるシリコンが塗ってあります。
電気鍼やイオン・ポンピング・コードでつないでも効率よく電気が流れるのかという疑問があります。少なくとも、わたしは鍼柄から得気を感じにくいです。

また、鍼のステンレス合金に含まれる、クロムとニッケルは皮膚炎を起こしますし(※1・※2)、鍼の表面に塗布されたシリコンは「シリコン肉芽腫」「脂肪肉芽腫」を起こす事が報告されています(※3、※4、※5、※6)。

鍼の素材について、ステンレス鍼が金属アレルギーを起こしやすいニッケルやクロムを多く含んでいることや、鍼尖から鍼体にシリコンがコーティングされていることさえ知らないヒトも居ます。

以下、ニムツォフの論文より引用。

私は『鍼のツボに治療として磁石を貼る:文献レビュー』という文献に気づいて簡単なレビューをした。

2008年『英国医師会雑誌』にアメリカ、オレゴン州ポートランドの「ナショナル・カレッジ・オブ・ナチュラルメディスン」が発表した論文
「 鍼のツボに治療として磁石を貼る:文献レビュー 」
Magnets applied to acupuncture points as therapy – a literature review FREE
Agatha P Colbert
Acupunct Med. 2008 Sep;26(3):160-70.

ツボに磁石を貼る効果はやはり謎です。

【以下、資料】
※1:「鍼のニードルによるニッケル皮膚炎」
Nickel dermatitis from acupuncture needles.
Romaguera C
Contact Dermatitis. 1979 May;5(3):195.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/455974

※2:「ハリに含まれるクロムが原因と考えられる色素性痒疹」
谷井司
皮膚 32(8増), 106-110, 1990
https://ci.nii.ac.jp/naid/80005446229

※3:「シリコン・コーティングされた鍼によるシリコン肉芽腫」
Silicone Granulomas in the Setting of Acupuncture with Silicone-Coated Needles
Journal of Clinical & Investigative Dermatology  Volume: 2, Issue: 1

クリックしてJCID-2373-1044-02-0004.pdfにアクセス

※4:「美容鍼灸の副作用としての広範囲の顔面の硬化性脂肪肉芽種」
Extensive Facial Sclerosing Lipogranulomatosis as a Complication of Cosmetic Acupuncture
Bashey, Sameer MD; Lee, David S. MD; Kim, Gene MD
Dermatologic Surgery: April 2015 – Volume 41 – Issue 4 – p 513–516
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25768878

※5:1例目の鍼によるシリコン肉芽腫
Silicone granuloma on the entry points of acupuncture, venepuncture and surgical needles
Journal of Cutaneous Pathology Volume 27, Issue 6, pages 301-305, July 2000
http://onlinelibrary.wiley.com/…/j.1600-0560.2000.…/abstract

※6:2例目の鍼によるシリコン肉芽腫
Acupuncture granulomas
Journal of the American Academy of Dermatology
Volume 45, Issue 6, Supplement , Pages S225-S226, December 2001
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11712067
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6011370/

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする