日本における鍼麻酔・鍼鎮痛

谷美智士「針の麻酔作用について」
『日本医事新報』1971 (52)(2486) [83] p30~31

1969年7月に間中病院にて、谷美智士先生と間中喜雄先生が虫垂炎の鍼麻酔手術に成功したのが日本における最初の事例です。

谷美智士先生は中西医結合を提唱し、日本東方医学会を組織されています。

1971年秋に代田文彦医師は日産玉川病院にて40代女性で初の鍼鎮痛に成功します。代田文彦先生は沢田流の『鍼灸真髄』を書いた代田文誌先生のご子息です。代田文彦先生は1972年から1979年までに464例を鍼麻酔で手術します。代田文彦先生は中国からの情報がまったく無い状態で試行錯誤して鍼麻酔をつくったのですが、その際に父親の代田文誌先生の頭皮針のやりかたを応用しています。代田文誌は頭部だけで体幹の痛みの治療を行っていました。また、経穴によって鍼麻酔が起こる部位が違うことを研究されています。

代田 文彦, 光藤 英彦, 五十嵐 宏「針通電麻酔について」
『日本東洋醫學會誌』Vol. 23 (1972) No. 2 P 75-82

1972年8月12日に産婦人科医の飛松源治先生が帝王切開手術を鍼麻酔で行っています。飛松先生は終戦時ソ連に抑留され、中華人民共和国の軍医として中国の医大で講義した後、1953年に日本に帰国しました。そして、1970年頃に不幸にも帝王切開手術中の患者さんが死亡します。飛松先生は医師を辞めようかと考えたときに中国の鍼麻酔のニュースを聞き、中国語が堪能であることを利用して中国で研修を受けます。飛松先生の論文は鍼感・響き・得気が重要であることを指摘しています。

飛松 源治「産婦人科領域における鍼麻酔手術の成績」
『自律神経雑誌』Vol. 25 (1978) No. 2 P 39-41

飛松源治『鍼灸と催眠療法の入門 入眠・鎮痛・和痛分娩・帝王切開』三景

1972年8月6日に蠣崎要先生、谷美智士先生が鍼灸師の沢津川正一先生の協力のもとで日本初の鍼麻酔の帝王切開手術に成功します。

蠣崎要先生は右腕のしびれがどうしてもとれないのを鍼灸師の治療で根治しました。そこで、1964年から中谷義雄先生のもとで良導絡を学んでいました。蠣崎要先生は経絡治療家の池田正一先生と古典鍼灸の文献も書かれています。

「帝王切開における針麻酔」
谷 美智士, 蠣崎 要, 石塚 栄一
『日本東洋醫學會誌』Vol. 23 (1972) No. 4 P 251-259

「図解鍼灸医学入門―古典鍼灸の法則とその運用」
蠣崎要、池田政一、医道の日本社、1977年

1972年11月6日に大阪医科大学の兵頭正義教授は鍼麻酔による和痛分娩を合谷・足三里・三陰交で成功させます。兵頭正義先生は1965年から大学病院のペインクリニックに鍼治療を導入しました。1974年には『低周波置針療法ーハリ麻酔の治療への応用』(医歯薬出版)を出版しています。

兵頭正義教授は、SSP療法を創りました。しかし、同時に鍼による捻鍼と響きがポイントであること、合谷で鍼麻酔する場合は酸・張・重・鈍・麻の感覚を起こし、捻鍼すると劇痛に近い感覚を起こすことがコツであることを書かれています。

1973年3月から産婦人科医の石野尚吾先生は鍼麻酔による和痛分娩を76例おこないました。論文を読むと三陰交を使っています。石野尚吾先生の父親は石野信安先生であり、女性の安産のツボとして三陰交を使われたことで有名です。

「産婦人科領域に於ける針麻酔の治験」
石野 尚吾『日本東洋醫學會誌』Vol. 25 (1974) No. 2 P 72-74

筑波大学の芹沢勝助先生は1971年から鍼麻酔方式の電気鍼を使っていました。1973年からスモン病の針灸治療を厚生省特定疾患研究として行い、鍼麻酔によって症状を軽減させました。

芹沢 勝助「鍼麻酔と鍼灸治療ー鍼・鍼麻酔方式の臨床応用とその限界」
『日本鍼灸治療学会誌』Vol. 25 (1976) No. 2 P 1-14,66

同じ筑波大学の吉川恵士先生や西條一止先生も1971年から低周波鍼通電療法を治療に用いており、これが筑波大学式低周波鍼通電療法に発展します。海外の電気鍼も研究しましたが、皮下パルス、筋パルス、関節パルス、神経パルス、反応点パルスを使い分けているのは筑波式だけだと思います。

吉川恵士「運動器疾患の鍼治療ー局所治療の立場から」
『全日本鍼灸学会雑誌』Vol. 53 (2003) No. 1 P 8-13

西條 一止「鍼灸研究30年とゆるぎ石との出会い」
『全日本鍼灸学会雑誌』Vol. 52 (2002) No. 4 P 379-403

《歯科》
「歯科領域における鍼麻酔」
浅野 安生, 森田 茂則, 榎本尚美 尚美
『医療』Vol. 32 (1978) No. 12 P 1507-1511

鎮痛をかける歯によって、ツボを使い分けることが具体的に書かれています。

《獣医》
「獣医ハリ麻酔のすすめ」
木全 春生『日本獣医師会雑誌』
Vol. 28 (1975) No. 4 P 169-176

牛・馬・イヌなどの鍼麻酔が書かれています。鍼麻酔の研究者ブルース・ポメランツは獣医でした。鍼麻酔の機序は動物実験によって解明されました。

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