肩こりと痃癖

「肩こり」とその背景
矢野 忠
『全日本鍼灸学会雑誌』
1996 年 46 巻 2 号 p. 91-95

肩こりの文化的背景を探る基礎文献です。

以下、引用。

元禄元年(1688年)に出版された浅井貞庵の『方彙口訣』下巻の肩背痛の項に「背より肩後へ凝るあり」と記述され、また、天保2年(1831年)に発刊された『医療察病考』の肩背痛の項にも「肩背の強くこる」「肩のこり」といった記述があり、江戸時代には「肩のこり」といった表現は確実に存在していることがわかった。

幕末に来日した医師へボンが編纂した『和英語林集成』第3版(明治19年)の「コル」の項にKenpeki Kata ga koruすなわち「肩癖、肩が凝る」という用例があることから明治初期にはすでに「肩がこる」の表現があった。

矢野先生の論文では、まだ、歴史的に論じられていない部分があります。

1630年の日本ポルトガル語辞典では、Quebeqi(けんべき)、Feqi(癖へき)が「肩の悩み」の意味で使われているのが最初です。

蘆川桂洲の1688年『病名彙解(びょうめいいかい)』では痃癖がくびと肩のコリで打肩と呼ばれますが、これは拳で肩甲骨の内側を打つという「打肩」「内肩」の意味であることを論じています。

また、中国医学の痃癖は腹部の病気であり、痃癖を肩こりとする意味の変換は江戸時代に起こりました。

江戸時代の文献では按摩痃癖と頻繁に書かれ、按摩の治療対象は痃癖(げんぺき=肩こりでした。この痃癖が肩癖となり、けんびきとなりました。

「癖」は『諸病源候論』の「癖病」であり、痰が腹部に滞る病です。痰により気血が偏って詰まると「癖」となります。「あの人は癖がある」という日本語は「あの人は偏っている」という意味です。『諸病源候論』には酒癖という病気がありますが、これはアル中の意味ではなくて酒による腹部の痰湿です。

「延年半夏湯の臨床的研究」
矢数 道明
『日本東洋醫學會誌』1962 年 13 巻 2 号 p. 59-64

左肩こりと延年半夏湯です。

1958年の細野史郎先生の論文『延年半夏湯について』の追試および漢方の方意の分析です。圧診が鍼灸師の参考になります。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする