トリガーポイントの生きたコリと死んだコリ

2007年の台湾のトリガーポイント鍼の論文
「キー・トリガーポイントへの鍼はサテライト・トリガーポイントの興奮を減らすかもしれない」
Dry needling to a key myofascial trigger point may reduce the irritability of satellite MTrPs.
Hsieh YL et al.
Journal Am J Phys Med Rehabil. 2007 May;86(5):397-403.

これはトリガーポイント鍼の分野の重要論文です。

臨床で筋肉内のトリガーポイントを検索していると複数のトリガーポイントを触知できますが、その中でもそこに鍼を刺入すると他のトリガーポイントの痛みが消失する一点があります。それがカギになるキー・トリガーポイントです。ある先生は「真痛点」と表現されていました。残りのトリガーポイントはサテライト・トリガーポイントです。

トリガーポイント理論では

(1)単なる硬結(taut band)

(2)潜在的トリガーポイント(latent trigger points)

(3)活性化トリガーポイント(active trigger point)

の三種類があります。

(1)単なる硬結は押しても何も起こりません。患者も何も感じません。単に「コリコリ」と固い感じがするだけです。わたしは「死んだコリ」と呼んでいます。

(2)潜在的トリガーポイントは自発痛はなく、皮膚に垂直に深く指圧すると局所の圧痛と遠隔まで放散する関連痛を起こします。患者は皮膚や皮下組織には圧痛を感じずに、筋肉内で圧痛を感じます。

(3)活性化トリガーポイントは患者の訴える痛みの根源です。自発的痛があり、運動機能の低下や運動時痛を引き起こします。特徴は圧迫により関連痛を引き起こします。

鍼を刺すと局所的単収縮(ローカル・トウイッチ・レスポンス:LTR)を引き起こします。
アクティブ・トリガーポイントは術者の指頭にヌルヌル感(炎症による腫脹、浮腫)やベトベト感(熱感)を感じさせる「生きたコリ」です。グミのような小結節に指圧を加えると患者さんはジャンプするような痛み(ジャンプ・サイン)を示します。

このアクティブ・トリガーポイントが形成されると、共同筋や拮抗筋、同じ神経支配筋にサテライト・トリガーポイントが発生します。サテライト・トリガーポイントは最初に形成されたトリガーポイントを鍼で刺激すると痛みがなくなります。それで、最初のトリガーポイントはプライマリー・トリガーポイント、キー・トリガーポイント、サーテイン・トリガーポイントと呼ばれ、サテライト・トリガーポイントはセカンダリー・トリガーポイントとも呼ばれます。

以下、この論文のイントロダクションの重要部分を抜粋して翻訳します。

以下、引用。

筋筋膜トリガーポイントは骨格筋線維における硬い緊張帯の中の過敏なスポットであると定義されている。

潜在的トリガーポイント(正確には圧痛はあるが自発痛は無い)はほとんどの骨格筋に見られる。

潜在的トリガーポイントは活性化されるとアクティブ・トリガーポイントになり、アクティブ・トリガーポイントは痛みを生じて非常な圧痛となる。臨床観察ではアクティブ・トリガーポイントが抑制されると、まだ圧痛はあるが、痛みがある状態ではなくなり潜在的トリガーポイントとなる。

潜在的トリガーポイントは様々な病理的な状態によりアクティブ・トリガーポイントとなる。適切な治療によってアクティブ・トリガーポイントは抑制され、非活動的となる。トリガーポイントは消えないが、アクティブ・トリガーポイントが潜在的トリガーポイントになるのである。

アクティブ・トリガーポイントについて二つの重要な特徴がある。一つは離れたところから関連する痛みがあることで関連痛と言われる。もう一つは、ローカル・トウイッチ・レスポンス(LTR)であり、アクティブ・トリガーポイントの場所に急速で簡潔で機械的な刺激を硬結の中の筋線維に加えることで活発な筋収縮が起こる。
(注釈:LTRは刺鍼中に筋肉がピクッと単収縮する現象であり、現代中医学の得気と同じ現象です)

動物実験による基礎研究では、LTRは脊髄神経を介した反射である。

LTRを起こす場所は侵害受容器神経終末が豊富である。LTRの場所は筋肉のエンドプレート・ゾーンに頻繁に見られる。人間の実験でも動物実験でも、他の場所と比較してエンドプレート・ノイズがトリガーポイントの場所でより多く記録されている。

我々の臨床では、痛みの開放においてプライマリー・トリガーポイントとサテライト・トリガーポイントのインタラクションという現象を観察している。患者が複数のトリガーポイントを持っている際にキー・トリガーポイントを鍼刺激で非活性化すれば、他のトリガーポイントの痛みは抑制される。我々の知る限り、以前にこの現象を説明するいかなる臨床試験も行われていない。

ホンたちが行った基礎研究は、アクティブ・トリガーポイントの場所には複数の過敏な箇所があることを証明している。その過敏な場所は、おそらく多くの過敏なスポット(LTR loci)と過敏な侵害受容器で形成されている。そして、これらの過敏化した侵害受容器は脊髄神経を介して中枢神経を過敏化し、関連痛帯にあるトリガーポイントと関連する脊髄後角に神経インパルスを送っている。このアクティブ・トリガーポイントはキー・トリガーポイントであり、関連痛帯にある過敏化したトリガーポイントがサテライト・トリガーポイントである。

そしてサテライト・トリガーポイントへの圧迫痛の入力は中枢の過敏化を減らす。キー・トリガーポイントが適切な治療により抑制されたら関連痛帯にあるサテライト・トリガーポイントも中枢の過敏化が取り除かれ、痛みが減る。このメカニズムは我々の今回の実験研究における現象を説明できる。

トリガーポイント鍼療法を使っていると鍼灸師が経験する事象をよく記述していると思います。

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