脳卒中の鍼の機序と神経可塑性

2018年9月30日『ナチュラル・ニュース』
「科学は、鍼が脳卒中患者の回復を早める効果があることを確証した」
Science CONFIRMS the efficacy of acupuncture in helping stroke patients recover more quickly

250人の患者に行ったランダム化比較試験です。この記事と原著論文はかなり面白かったです。

以下、引用。

研究者たちは、鍼を受けた患者が神経機能において顕著に改善を示したことを報告している。鍼グループは下肢の機能、嚥下、認知機能において改善を示したことを報告している。脳卒中に関連した下肢の機能は明らかに改善したが、上肢の機能は改善しなかった。運動機能についてはそれほど改善がみられなかった。

中国の中医大学や中医病院に見学に行くと、天津中医薬大学の石学敏先生の醒脳開竅法(せいのうかいきょうほう)をはじめとして、中医学鍼灸は脳卒中に主に使われています。

しかし、EBMの立場からは脳卒中の鍼の効果についてクリアなエビデンスはありません。

急性期を数年前に過ぎた慢性期の脳卒中の患者さんを私が鍼灸治療した経験では、運動機能は予測したほどは改善しないのでずっと疑問を持っていました。

少なくとも2018年3月の中国・四川大学による最新の「コクラン・システマティックレビュー」では、明確なエビデンスは出ませんでした。自分の経験から脳卒中の鍼治療についてはネガティブな感想しか持っていません。

2018年3月30日『コクラン・システマティックレビュー』
「急性脳卒中の鍼」
Acupuncture for acute stroke.
Xu M,et al.
Cochrane Database Syst Rev. 2018 Mar 30;3:CD003317. doi: 10.1002/14651858.CD003317.pub3.

上記において急性脳卒中の鍼の効果についてはエビデンスは不明瞭です。

しかし、現在の中国の病院での鍼は脳卒中がかなり大きな割合を占めているイメージがあり、結果を出していないという意味で大きな問題であると思います。日本のベテラン鍼灸臨床家、または懐疑派の西洋医師を説得するのは不可能であると思います。

原著論文2016年7月18日浙江中医薬大学
「軽度または中程度の出血性脳卒中の患者の早期包括的リハビリにおける付加的効果:マルチセンター・ランダム化比較試験」
Additional effects of acupuncture on early comprehensive rehabilitation in patients with mild to moderate acute ischemic stroke: a multicenter randomized controlled trial
Lifang Chen et al.
BMC Complementary and Alternative Medicine

治療ポイントは、焦順発先生の『頭鍼療法』の運動区:the motor region (MS-6)、感覚区:the sensory region (MS-7)。

体鍼の肩ぐう(LI15)、曲池(LI11),手三里(LI10)、外関(TE5)、合谷(LI4)、梁丘(ST34)、足三里(ST36)、陽陵泉(GB34)、三陰交(SP6)、豊隆(ST40)、解谿(ST41),太衝(LR3)。

嚥下障害があれば、風池(GB20)、翳明(EX-HN14:Yiming),天柱(BL10)、目窓(GB16)、廉泉(CV23)。

認知障害があれば風池(GB20)、日月(GB24)、本神(GB13)、四神聡(EX-HN-1:Sishencong) を加えていました。

この論文で画期的なのは、2016年浙江中医薬大学の論文が「上肢機能などの運動機能はあまり改善していないが、認知機能や嚥下機能はかなり改善している」と250人を対象としたランダム化比較試験で報告したことです。臨床的に参考になります。

鍼は麻痺した運動機能ではなく、神経可塑性に働いているようなのだと機序から考えて納得できます。肩ぐう、曲池、手三里、外関、合谷とかなり響きの強いツボに刺していますが、上肢の運動機能はあまり改善していません。問題は西洋医学的には脳神経での神経可塑性だと思います。

臨床研究では急性脳卒中の鍼のエビデンスは不明瞭ですが、基礎研究では神経可塑性の研究などを調べると希望が持てます。焦氏頭皮鍼だけでなく、YNSAなど頭部の鍼を工夫していけば、より良い結果を出せる可能性があると思います。

2018年4月台湾中国医薬大学『神経再生研究』発表
「鍼と脳出血における神経再生」
Acupuncture and neuroregeneration in ischemic stroke
Qwang-Yuen Chang et al.
Neural Regen Res. 2018 Apr; 13(4): 573–583.
doi: 10.4103/1673-5374.230272

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