『経絡治療鍼灸臨床入門』

経絡治療鍼灸臨床入門
小野文恵
医道の日本社 (1988/3/20)

2019年1月13日に関西中医鍼灸研究会で津田昌樹先生をお招きして「気至るを実感するためのトレーニングと方法」をテーマに講義と実技をしていただきました。

津田昌樹先生といえば東方会の接触鍼というイメージがあります。東方会の小野文恵先生は接触鍼で有名です。国立がんセンター緩和ケア科で行われているのは東方会の鍼灸です。

昭和鍼灸の歳月』の109ページからは、小野文恵先生が患者に刺したあとで急死した経験を自己紹介の際に話し、その場にいた一同が笑ったところ、柳谷素霊が「笑っちゃいかん!」と一喝して、静まり返ったエピソードがあります。

経絡治療鍼灸臨床入門』でも、136ページの「接触鍼に至るまで」という文章で、まったく同じエピソードが書かれています。この患者が急死したことと、小児鍼から接触鍼を開発したことが書かれています。

東方会の接触鍼の技術は数回だけ経験がありますが、繊細としか言いようがないです。体験しないと絶対にわからない世界です。

わたしも鍉鍼や毫鍼の接触鍼を多用します。現代は敏感な患者さんが多く、また、強皮症などの膠原病の患者さんに「ステロイド治療をしているので、刺す鍼はしないでくれと医師にいわれた」という場合もあります。あるいは白血病の患者さんを無菌室で接触鍼したこともあります。免疫力が低下して、刺激に過敏なターミナルや抗がん剤の治療中の患者さんにも、接触鍼の技術があれば対応できます。

■気至るを実感するためのトレーニングと方法

「得気」あるいは「気至」は鍼の最重要テーマです。
『霊枢』の九鍼十二原に以下の記述があります。

以下、引用。

これを刺して気至らざればその数を問うことなかれ

これを刺して気至れば、すなわちこれを去りまた鍼をすることなかれ

鍼におのおの宜しきところ。ありおのおの形を同じくせず刺鍼の要となす。

気が至れば効果が有り、効果は風が雲を吹くかのごとく、明らかに蒼天を見るがごとくである。刺鍼の道は畢(おわ)れり。(これにて鍼治療の道理は説明しおえた)

現代中国は得気を鍼麻酔の影響で酸、脹、重、鈍、麻としていますが、ひどい間違いだと思います。

また、現代中国は「気至(きいたる)」を『鍼経指南』の記述から「気至病所(きいたるびょうしょ)」と解釈しているのも学問的に間違いだと思います。

『針経指南』標幽賦の「軽滑慢はいまだ気は至っていない。沈渋緊は気が至っている。気が至ると魚が釣り餌を飲み込むかのようであり、気が至らなければ静かなお堂の奥に静かにいるかのようである」という表現のとおり、得気、気至は手の下の感覚だと思います。

「気至れば効果有り」であり、気至るの理解は「刺鍼の道は畢れり」と言われるほどです。

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