【セミナー補足資料】肝病の治法2

清代、李冠仙 『治医必辨』の「肝気を論じる」

『治医必辨』は中医学の肝病治療、臓腑病の治療に関する議論の決定版でした。私自身、つたなくても臨床を通じてだいたいの自分なりの結論を出して、それから李冠仙の『治医必辨』の議論を読んで、200年以上前に生きた中医と自分の意見が一致したことに驚きました。

以下、引用。

私が深く考えるに、肝病の治療法には10種類がある。

心は肝の子であり、実すればその子を瀉すのが一法である。

鍼灸では肝火に心包経の内関(PC6)や火穴を使う時などです。

腎は肝の母であり、虚すればその母を補うのが二法である。

鍼灸では肝虚に腎経で補法する場合などです。

肺は気の主であり、肝気が上逆すれば肺金を清粛させてこれを平らにするのが三法である。

鍼灸では肺経や金穴を使ったり、肺の宣発粛降作用を高める治法です。

胆は肝の葉であり、肝気上逆すれば必ず胆火をはさみ、胃を犯す。嘔吐して酸に苦しむものは肝火に苦しむ、すなわち胆火に対して温胆の法を用いれば、肝気はそれにしたがって平らになる。これは肝臓の甲木を胆嚢の乙木で平らにする方法で四法である。

鍼灸では肝経の症状に表裏する胆経を使う場合や、肝血虚に対して膈兪(BL17)ー胆兪(BL19)の四華穴に灸するなどです。

肝陽が旺盛になれば養陰してこれを潜ませる。牡蛎など貝類を使ってこれを潜ませるのが五法である。

鍼灸では湧泉(KI1)や三陰交(SP6)など身体の下部のツボで降気することで肝陽上亢を治療します。

肝病には脾を充実させる。これは張仲景が『金匱要略』で用いた法が六法である。

また、肝に火があれば、軽ければ左金丸、重ければ竜胆潟肝湯を用いる。これが七法である。

これに黄帝内経の三法、つまり「(肝病は)辛味でこれを散じ、酸味でこれを収歛し、甘味でこれを緩める」を加える。どうして十法を書くのか。もし、破気(強い瀉法による理気)を使えば‪一時‬的に軽快してもすぐに張ったような痛みとなり、一度は治ったように見えても余計に重くなる。これはヘタな医のやることだが、たいていの医はまず破気(瀉法で気をめぐらせる)を先にして、治らなければ逍遙散を投与して、結局さらに病状は悪化する。それゆえ肝気の論を作った。

つまり、200年前の中医のことばを鍼灸に翻訳すると、五行の木である肝が病んだ時に心経・脾経・肺経・腎経と表裏する胆経を使って治療する方法論が伝統としてあります。これは複雑すぎて教科書に書くことはできません。これは手足の五行穴だけを使って治療していた時期に痛感したことです。

以下の張仲景の『金匱要略』の有名な一節は、五行説を利用した治療法に関する最高の議論だと思います。

上手な医は未病を治すとはどういう意味か。

師いわく、未病を治すとは肝病をみて病が脾臓に伝わるのを知って脾臓を先に実する。中程度の医は肝病を見て脾臓に伝わるのを知らずにただ肝のみを治療する。肝臓の病では酸味で補い、焦苦味で助け、甘味で益して調整する。酸味は肝に入り、焦苦味は心に入り、甘味は脾に入る。(肝病に脾土を実すると)脾土はよく腎水をおさえつけ、腎水は弱くなって水が行かず、水がいかなければ心火が旺盛となり、心火が旺盛となれば肺金が弱り、肺金が弱れば金気が行かずに、肝木の気が旺盛となり、肝気が盛んとなれば肝は癒える。これが肝臓を治療するのに脾臓を補う妙要である。

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