【肩関節周囲炎セミナー補足資料】心血管疾患と内関

2019年4月「心血管疾患の鍼:システマティックレビュー」
Acupuncture for the treatment of cardiovascular diseases: a systematic review.
de Lima Pimentel R et al.
J Acupunct Meridian Stud. 2019 Apr;12(2):43-51.
doi: 10.1016/j.jams.2018.07.005. Epub 2018 Jul 27.

ブラジル・リオデジャネイロ連邦大学の循環器実験所のロドリゴ・デ・リマ・ピメンテル先生のチームが『ジャーナル・オブ・アキュパンクチャー・アンド・メリディアン・スタディーズ』に発表された論文です。

以下、引用。

【ディスカッション】
このレビュー研究において、異なるテクニックであるが内関穴が最も使われていた(10研究、64.7%)。

経皮的冠動脈形成術の1-2時間前の内関と郄門のツボへの30分電気鍼は、結果として急性心筋梗塞を減少させ、心機能を改善させ、突然死・不整脈・心不全・急性血栓、心筋梗塞、脳卒中のような有害事象を減少させた。ホーらはアンギオグラフィーで冠状動脈疾患と証明された22人の患者の内関を刺激して、心機能の改善を鍼治療群で観察した。
黒野らは血管攣縮性狭心症への内関の鍼が有害であり、冠状動脈の血管攣縮を引き起こすことを示唆した。

これは1995年の『鍼灸OSAKA』Vol.11.No.3(1995 Aut)の226ページの記事『座談会/胸痛(狭心症の適応をめぐって)』での藤本蓮風先生の発言です。

特に心陽虚、心気虚の治療に、内関を下手に使うと危険だということは決定的です。中医学でよく治療穴として使っているのですが、あの程度の心気虚だったらはっきり言ってそんなに重くないんです。ここへ刺して死ぬ例というのはたくさんあります。昔の人も経験して言っているのですが、わからない人は結構、内関に刺しているんですね。

この座談会では、冒頭で坂本豊次先生が経験された鍼治療の翌日急性心不全で急死された症例をめぐっての討論を行い、それを受けての藤本蓮風先生の発言です。参加者の先生方は真剣に討論されており、読んでいて本当に背筋が伸びます。どうせ研究するならこういう本物の記事を読んで研究しないと。そして、『66症例から学ぶ鍼灸不適応疾患の鑑別と対策』の78ページの坂本豊次先生の症例は必読文献です。

4月28日に開催した「肩関節周囲炎(五十肩)の鍼灸治療セミナー」で「心虚証に内関を刺すと致命的なシビアアクシデントが起こる可能性がある」とお伝えしました。

20年ほど前に邵輝先生に全く同じことを指導された直後に調べ物をしていて、この藤本蓮風先生と坂本豊次先生の急性心不全の症例を読み、注意されたことがそのままベテランの先生によって書かれていたのですごく覚えています。以来、心の臓腑弁証を講義していた頃はこのことを必ず話していました。

「心陽虚、心気虚の治療に内関を下手に使うと危険」という知識は、ある程度臨床経験を積んだら腑に落ちますが、初心者では理解できない可能性があります。致命的なアクシデントが起きてからでは遅いです。ブラジルの研究チームも2019年の心臓血管疾患のシステマティックレビューに明記しているように、内関は良いツボですがリスクもあることは知っておかなければいけないと思います。

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