過敏性腸症候群(IBS)の弁証論治

「五臓弁証論からの『過敏性腸症候群』の治療」
从五脏辨证论肠易激综合征的治疗
赵海燕,胡乃强,黄适,黄婷,林福旭,王松
遼寧中医雑誌、2017年第44巻第2期

過敏性腸症候群(IBS)を現代中国語では「肠易激综合症」といいます。現代中国の中医学の論文では「肝気犯脾」と単純化していることが多いように感じますが、この論文は五臓から弁証しています。

もちろん、明代『景岳全書』泄瀉に「怒気による泄瀉」などストレスによる下痢の記述を「肝気犯脾」と論じており、過敏性腸症候群は肝気犯脾の側面は当然あります。しかし、この論文では、先ず心と小腸の関係を述べています。

論文中で紹介されている王苏娜先生は心経の神門(HT7)や少海(HT3)、心包経の大陵(PC7)や内関(PC6)、大腸の募穴である天枢や小腸の下合穴の下巨虚(ST39)を使われるそうです。

日本鍼灸は伝統的に沢田流神門を便秘の治療に使ってきました。このセンスの良い配穴はすごいと思って王苏娜先生を調べたら、先祖代々の経絡弁証鍼灸で有名な管氏针灸の伝承者、管遵惠先生のお弟子さんでした。

管氏针灸は経絡弁証を研究した際に文献研究したことがあります。

2010年『中国鍼灸』掲載
「心から論じる過敏性腸症候群の研究」
从心论治肠易激综合征的探讨.
王苏娜et al.中国针灸,2010,30(11):957-959.

肺と大腸は表裏するので過敏性腸症候群を肺から治療するという論文は複数あります。

また、古典では「腎は二便を主る」であり、古典を読むと腎と泄瀉の関係が多数書かれています。

つまり、心ー小腸、肝、脾ー胃、肺ー大腸、腎のいずれもが過敏性腸症候群と関連していると考えて弁証すべきだと思われます。

2012年10月イギリスのヒュー・マクファーソンの研究
「過敏性腸症候群の鍼:プライマリケアに基づくプラグマティックなランダム化比較試験」
Acupuncture for irritable bowel syndrome: primary care based pragmatic randomised controlled trial.
MacPherson H,
BMC Gastroenterol. 2012 Oct 24;12:150. doi: 10.1186/1471-230X-12-150.

2012年7月のアメリカ、メリーランド医科大学のエリック・マンハイマーによるコクラン・システマティックレビューでは「ランダム化比較試験では真鍼と偽鍼の間で過敏性腸症候群の症状やQOLにおいて効果の違いは発見できなかった」と結論されました。

2012年コクランシステマティックレビュー「過敏性腸症候群の鍼」
Acupuncture for treatment of irritable bowel syndrome.
Manheimer E,et al.Cochrane Database Syst Rev. 2012 May 16;5:CD005111.

しかし、2012年10月のイギリスのヒュー・マクファーソンの研究 では、イギリスでの116人の患者を従来の治療プラス10回の鍼治療、117人の患者は従来の治療のみで3ヵ月後に比較したところ、鍼治療が統計的に有意に改善したと報告しています(+鍼治療49%、従来治療31%)。しかも、この利点は6ヵ月後、9ヵ月後、12ヵ月後も持続しました。これは画期的だと思います。

過敏性腸症候群を現代中国語では肠易激综合症といいます。2004年に書かれた「 過敏性腸症候群の中世医結合診療方案 」では過敏性腸症候群の弁証を以下のように論じています。

1.肝欝気滞証
2.肝気乗脾証
3.脾胃虚弱証
4.大腸燥熱証

2004年「過敏性腸症候群の中世医結合診療方案」
肠易激综合征中西医结合诊治方案
陈治水, 张万岱, 危北海, 中国中西医结合学会消化系统疾病专业委员会
世界华人消化杂志. 2004-11-15; 12(11): 2704-2706
doi: 10.11569/wcjd.v12.i11.2704

2016年の中国の『世界中医薬』に発表された南京中医薬大学の論文「過敏性腸症候群の鍼灸治療の総合的研究発展」では、裴丽霞らが天枢(双)、足三里(双)、上巨虚(双)、三阴交(双)、太冲(双)、百会、印堂を使っていますが、やはり過敏性腸症候群を肝欝脾虚証とみるものが多い印象があります(2012年「针灸治疗腹泻型肠易激综合征肝郁脾虚证临床研究」)。

2016年「鍼灸治療による過敏性腸症候群の研究発展」
针灸治疗肠易激综合征的研究进展
徐万里, 孙建
世界中医药 ; 2016年 06期 (2016 / 07 / 20) , P1109 – 1113,1118

上記論文では、陳日新先生の熱敏灸が書かれているのが面白かったです。

2016年「異なる鍼治療法による下痢型の過敏性腸症候群の臨床研究」
不同针法治疗腹泻型肠易激综合征的临床研究徐大可、,
宁厚旭、,孙建华辽宁中医杂志 2015年第 42卷第 9期

この論文も、1971年に焦順発先生が開発した頭鍼、1970年代に劉金栄先生が開発した口鍼、1970年代に彭静山先生が開発した眼鍼、安徽省の老中医・張道宗先生が開発した通督調神の鍼で水溝、印堂、内関、 中脘、気海、足三里を紹介しているのはユニークだと思いました。過敏性腸症候群の患者さんにはYNSAのような頭皮鍼や顔面部の鍼を検討したくなりました。

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