金元四大家、劉完素の経絡弁証

金元四大家の劉完素先生が1172年に書かれた『素問病機気宜保命集』巻下・薬略第三十二(鍼法附)です。

『素问病机气宜保命集』卷下・药略第三十二(针法附)

金元四大家、寒涼派の劉完素先生は、異民族支配下の金朝に生きました。劉完素先生は近所に住んでいた易水内傷派の祖、張元素先生から多大な影響を受けたようです。

張元素先生は『珍珠嚢』と『医学啓源』で生薬の引経報使学説、升降浮沈を提唱しました。もともと張元素先生の父親である張壁先生も『雲岐子論経絡迎随補瀉法(云岐子论经络迎随补泻法※『普济方·针灸』に収録)』を書いた鍼灸家であり、鍼灸・漢方ともに経絡から分析しています。経絡弁証にもとづく漢方・鍼灸です。

以下、劉完素『素問病機気宜保命集』巻下・薬略第三十二(鍼法附)より引用。

麻黄:太陽経と太陰経から発汗させる。

石膏:肺火を瀉し、陽明経を大いに涼やす薬である。

【流注鍼法】
心痛があり、沈脈なら、腎経の原穴である太溪を用いる。
※注:劉完素先生は心腎不交の治療で腎経を用いるのが特徴的。

心痛が有り、弦脈なら、肝経の原穴である太衝を用いる。
※注:弦脈は肝胆であり肝経を用いる。渋脈は秋肺脈であり、太淵を用いる。

心痛があり、浮脈なら、心経の原穴である神門を用いる。
※心腎不交で虚火が浮いている状態か?

心痛があり、緩脈なら脾経の原穴である太白を用いる。
※湿病をあらわす緩脈なので脾経の原穴を用いる。

腰痛で、からだの前の症状なら足陽明胃経の原穴の衝陽を用いる。からだの後ろの症状なら足太陽膀胱経の原穴の京骨を用いる。からだの側面の症状なら足少陽胆経の原穴の丘墟を用いる。

脈診や経絡弁証で治療法を変えています。劉完素先生の鍼は弁証論治の鍼といえると思います。

以下、『素問病機気宜保命集』巻下・薬略第三十二(鍼法附)より引用。

【鍼で最も重要】

両脇の痛みでは、足少陽胆経の丘墟に鍼をする。

心痛では、足少陰腎経の太溪や湧泉に鍼をして、さらに足厥陰肝経の原穴の太衝に刺す。
※劉完素先生は「心腎不交」に対して下焦を補腎する治療を得意としており、それで心痛に補腎・補肝腎するのだと推測します。

腰痛が我慢できないなら、崑崙に鍼して、委中を刺して出血させる。

骨熱が治らないで前歯ぐきが乾燥するなら、まさに百会・大椎に灸をする。

出血が止まらず、鼻血、尿血・便血なら、足太陰脾経の井穴である隠白を刺鍼する。

のどの詰まり感なら足少陽胆経の井穴である足竅陰を刺し、あわせて少商を刺し、さらに足太陰脾経の井穴である隠白を刺す。

劉完素先生の鍼灸を分析すると本当に鍼灸の名人だと感じました。さすが金元四大家です。

劉完素先生の弟子、羅知悌先生が、金元四大家の朱丹渓先生の師匠となりました。

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