【BOOK】野の医者は笑う

野の医者は笑う: 心の治療とは何か?
東畑開人著 誠信書房(2015年8月)

京都大学で河合隼雄や山中康裕、岡田康伸、森谷寛之などの日本におけるユング派の臨床心理学を学び、博士を取得し、臨床心理士として沖縄のクリニックで臨床をされた東畑開人先生の著作です。もの凄く面白かったです。

この本の中には、「ぶーぶー(沖縄方言で瀉血吸玉)」、「ヤブー医(漢方や鍼灸の知識をもった薮医者=野巫やぶ医者)」も出てきます!

ヴィッキー・ウォールが1984年に創ったオーラ・ソーマ、エミール・ヴォダーが1932年に創ったマニュアル・リンパ・ドレナージュ、ウイリアム・フィッツジェラルドが1913年につくった足底反射療法・リフレクソロジー、臼井甕男が1922年につくったレイキ(霊気)、ユタ、ノロ、カミダーリ、パワーストーン、チャクラ、ヒーリング、守護天使、前世療法が入り混じる沖縄ヒーリング・ワールドの体験記です。

この中にも触れられているように、元大蔵省官僚の山川紘矢、亜希子夫妻が1986年にシャーリー・マクレーンの『アウト・オン・ア・リム』を翻訳出版したことが大きかったようです。

1996年に山川夫妻を呼んで那覇市で講演会があり、ここから沖縄スピリチュアルの歴史が始まります。アロマ専門店やヒーリングショップ、パワーストーンショップができて沖縄スピリチュアル文化が発達していきます。

この本で問われているのは、「傷ついた人が民間療法で癒しを得て、自分自身がヒーラーになる」というヒーリングのプロセスについてです。

自分自身が病者であり、鍼灸で治ることで、自分自身が鍼灸師になった方はたくさんいらっしゃいます。

昭和の名灸師と呼ばれた深谷伊三郎先生はその典型です。1923年~1932年の23歳から32歳ぐらいまでは深谷瑞輔というペンネームで雑誌『精神界』に書き、催眠術や心理学についての本をたくさん書かれていました。 これらの文献は、国立国会図書館近代デジタルライブラリーで読むことができます。

しかし、深谷先生は5年間、結核にかかり、自分が今まで書いてきた催眠術や心理学がまったく役に立たず、灸で治ったことから鍼灸師となりました。深谷伊三郎先生はスピリチュアル心理学の世界に生きてきましたが、鍼灸治療を受けてスピリチュアル心理学を捨て、鍼灸師となりました。

個人的にはヒーリング文化に親しみを持っています。「傷ついた人が、同じように傷ついた人を癒す」というのは、近代医学登場以前の人類文化で共通のヒーラーの誕生でみられることです。

近代医学にもとめられる個人的資質は正反対です。どの国家でも近代医療人に求められるのは、受験競争に勝利するための高い知力とブラック労動に耐えられる体力を備えた競争の勝利者、「強者」です。

日本の鍼灸師の立ち位置はユニークです。ヒーリング文化のヒーラーと近代医療人の間に立って独自の立ち位置を築いた深谷伊三郎先生が私個人のモデルになります。

1章 授賞式は肩身が狭い
――「野の医者の医療人類学」を説明しておこう
2章 魔女と出会って、デトックス
――傷ついた治療者たち
3章 なぜ、沖縄には野の医者が多いのか
――ブリコラージュするマブイ
4章 野の医者は語る、語りすぎる
――説得する治療者たち
5章 スピダーリ
――ちゃあみいさんのミラクルな日常
6章 マスターセラピストを追いかけて
――潜在意識と神について
7章 研究ってなんのためにある?
――学問という文化
8章 臨床心理士、マインドブロックバスターになる
――心の治療は時代の子
9章 野の医者は笑う
――心の治療とは何か?

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