WHO-ICD11に関するドイツの報道

2019年5月20日ドイツ国際公共放送『ドイチェ・ヴェレ(Deutsche Welle)』
「偽医療なのか、代替医療なのか。 中国伝統医学とは何なのか」
Quacksalberei oder Alternative: Was ist Traditionelle Chinesische Medizin?

以下、引用。

WHO世界保健機構は今週、新しい疾病の分類を可決する。一方で、中国伝統医学は癒しの方法として認めるべきなのか、激しい怒りの論争が起こっている。

「中国伝統医学は科学ではなく、神秘主義と魔術、逸話からなるものである」、これは西側の医学者が述べたのではなく、中国人科学研究者、方是民が2008年に科学雑誌で述べたものである。

方是民先生が中国で書いた『中医学は科学ではない(TCM is not science)』という批判記事は、もちろん中国政府の検閲システム、サイバー万里の長城といわれる「金盾」に消されてしまい、 現在では読むことができません。

数年前まで中国では「中医廃止論争」や「脈診チャレンジ」などインターネット上で普通の市民が市民感覚で中医学を批判して中国語で論争していましたが、この数年、「サイバー万里の長城」で検閲されてしまい、論争にもならないのは寂しいことです。

たぶん「中医廃止論争」や「脈診チャレンジ」などの中医懐疑論といわれる論争が2000年代から2010年代前半にあったことなど、最近、中医学鍼灸に参入してきたニューカマーの先生方は論争の存在さえ知らないと思います。インターネット上からほとんど完全に消されているからです。代わりに、たった1カ月の間に3回も4回も鍼灸をやる中医師が高速列車の中で急病人を助けた、日本や台湾では数年に1回あるかないかという大ニュースですが、というニュースを中国の新聞でみて苦笑いしていました。ドイツ公共放送『ドイチェ・ヴェレ』 の記事はかなり冷静です。

「中医取消論争に見る中国伝統文化–その現状と問題点」
杉本 雅子 『帝塚山学院大学研究論集』 42, 59-84, 2007

「脈診チャレンジ」は北京大学医学部の火傷専門の医師、寧方剛先生が2014年9月に「脈診で妊娠や胎児の性別がわかるというが本当なのか」と言い出して、中医師の先生がチャレンジを受けたという事件です。

中国政府の言い分を書くと、中国は1982年までは激しい論争がありましたが、1982年に憲法21条に「国家は現代医学と伝統医学を発展させる」という一文が入って国是となります。さらに、2013年に『中医薬法』ができて、2014年7月に『国家が実行する中西医学を併せて重視する方針』が政府から発表されます。2017年、習近平主席が中医薬を重視する方針を発表し、『中医薬法』が施行されます。中医学はアンタッチャブルなのです。

科学雑誌『ネーチャー』は以下のような批判をしています。

2017年11月29日科学雑誌『ネーチャー』
「中国政府は安全性への懸念にも関わらず、伝統医学の規制をあともどりさせる」
China to roll back regulations for traditional medicine despite safety concerns

以下、『ネーチャー』より引用。

ハルピン小児科病院の小児外科医リー・チンチェンは中医学批判でよく知られており、現在の安全基準は十分でないと呼びかけている。彼は、医師達が中医薬の危険性について公共に知らせる必要があると述べている。しかし、それを言う医師達はほとんどいない。「中医学を公に批判する医師はほとんど居ない。政府が中医学を推進しているため、科学者たちは中医薬を批判するのが難しくなっている。政治レベルまでエスカレートするため、開かれたディスカッションが制限されてしまう』と」リーは言う。

【批判は沈黙している】
代替医療産業を政府が強力にサポートしているため、中国政府の検閲はインターネットから疑問を急速に削除していっている。10月23日、メディカルニュースサイトから(漢方薬に含まれ、肝臓癌や腎障害をひきおこす)アリストロキア酸の注意を喚起するニュースが、WeChatのようなソーシャル・メディアから削除された。その記事は3日間に70万回も閲覧されたものだった。中医学に関するディベートは中国では以前から完全に沈黙している。

中医学に関する規制は緩和され、中国政府は中医師になるのもより簡単にした。そして、中医学病院を解説するのも簡単にしている。2017年7月より、中医学を学ぶ学生はもはや西洋医学にもとづく医師国家試験に合格する必要もなくなった。代わりに中医学の医学生は徒弟トレーニングに出席し、スキル・テストに合格する。そして、プラクティショナーはもはや食品薬品管理局の許可なしにクリニックをオープンできる。政府に登録するだけでよい。

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