オピオイド鎮痛剤

2015年フランス最古の病院、オテル・デュー・ド・パリ発表
「筋肉骨格系疾患のような非がん性疼痛への強オピオイド:アセトアミノフェンやNSAIDs(非ステロイド系鎮痛剤)以上の効果は無い」
Strong opioids for noncancer pain due to musculoskeletal diseases: Not more effective than acetaminophen or NSAIDs
Jean-Marie Berthelot et al.
Joint Bone Spine
Volume 82, Issue 6, December 2015, Pages 397–401

以下、引用。

慢性腰痛の患者に対する1日100ミリグラムのモルヒネ薬と強オピオイドは、プラセボ効果をほんのわずか上回っただけだった。その効果はアセトアミノフェンやもっと効果の弱い非ステロイド系抗炎症剤(NSAIDs)を越えない程度のものだった。

変形性膝関節症の患者に対して、強オピオイドは非ステロイド系鎮痛剤よりも効果的ではなかった。いくつかの研究ではプラセボよりも効果が無かった。座骨神経痛の患者ではプラセボとまったく違いが見られなかった。

驚愕の内容です。慢性痛の研究や臨床をする際に必須の知識になると思います。

沖縄戦など戦争の記録を読んでいると、手足や顔がふっとぶようなケガをしてもモルヒネを投与すれば痛みは無くなり、兵士たちは眠ります。また、末期ガンの耐え難い痛みに対してもオキシコンチンなどのアヘンを原料にした強オピオイド系鎮痛剤は患者さんの苦痛を助けます。急性痛やガン性疼痛に関してはモルヒネや強オピオイド系鎮痛剤などの麻薬系鎮痛剤は絶対に必要だと思います。

しかし、1990年代から2000年代にかけてアメリカでオキシコンチンやフェンタニルなどの強オピオイド系鎮痛剤が慢性腰痛や変形性膝関節症や座骨神経痛などの慢性疼痛に使われるようになりました。これらの強オピオイド鎮痛剤のEBMを調べたところ、驚愕の連続でした。

2013年のコクラン・システマティックレビューでは、オピオイド系鎮痛剤の慢性腰痛の効果は、プラセボをわずかに上回る程度だと判明しました(※1)。2015年12月に発表されたフランス・オテル・デュー・ド・パリの論文でも、一番効果の弱いNSAIDsのアセトアミノフェンと変わらないという内容でした。2016年4月のコロラド大学が『アメリカ科学アカデミー紀要(PNAS)』に発表した論文では、オピオイド系鎮痛剤が背髄のグリア細胞に働きかけて慢性痛が増す可能性まで示唆されていました(※2)。これは慢性疼痛について西洋医学がまだ理解できていない領域があることを論理的に示しています。

※1:2013年コクランシステマティックレビュー
「慢性腰痛へのオピオイド系鎮痛剤とプラセボまたは他の治療法との比較」
Opioids compared to placebo or other treatments for chronic low-back pain.
Chaparro LE et al.
Cochrane Database Syst Rev. 2013 Aug 27;(8):CD004959.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23983011

※2:2016年4月のコロラド大学の論文
Morphine paradoxically prolongs neuropathic pain in rats by amplifying spinal NLRP3 inflammasome activation
Peter M. Grace
Proceedings of the National Academy of Sciences
vol. 113 no. 24 , E3441–E3450
April 19, 2016

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