【追悼】ジェフリー・バーンストック先生の鍼理論

 
2020年10月9日『プリン作動性シグナリング』
「ジェフリー・バーンストック教授の追悼:彼の鍼への貢献」
Tribute to Prof. Geoffrey Burnstock: his contribution to acupuncture
Yong Tang & Peter Illes
Purinergic Signalling (2020)
 
 
以下、引用。
 
プリン作動性シグナリングの発見者である故ジェフリー・バーンストック教授は鍼の科学に重要な貢献を行った。ジェフリー・バーンストック教授の洞察的な仮説は、2009年の鍼の科学的基礎研究に基づいており、鍼におけるプリン作動性シグナリングの研究の爆発的増加となった。
 
(鍼麻酔研究での)エンドルフィン理論は鍼の働きを完全に説明することには失敗していた。そして2009年にジェフリー・バーンストックが仮説を発表し、さらに2011年と2014年に発展させた。ジェフリーは鍼を皮膚に刺して捻ることで変形した皮膚のケラチノサイトからATPが放出されることを提唱した。
 
ATPは皮膚の感覚神経終末のP2X3やP2X2/3受容体と結合して活性化する。そのシグナルは脊髄の神経根にあり、その後、神経ニューロン間を通じてモーターニューロンや腸、肺、血管、生殖器など鍼のターゲット臓器をコントロールする脳幹に作用する。シグナルは脳の疼痛を阻害する部位ペインセンターに運ばれる。
 
鍼の科学は、鍼におけるプリン作動性メカニズムにおける2つの発見から多大な恩恵を受けている。一つはマイケン・ネダーガードと彼女のグループかマウスに鍼をしてアデノシンとアデノシンA1受容体を介したアンチ侵害受容効果で鍼鎮痛を説明したことである。
 
我々はまだツボにおけるどのレイヤー(皮膚、筋肉、血管、神経終末)、どの細胞タイプ(ケラチノサイト、メラノサイト、メルケル細胞、ランゲルハンス細胞、フィブロブラスト繊維芽細胞、血管内皮細胞)が鍼の効果に関係しているのかを知らない。プリンのリリース放出が中医学で仮定されている14経絡と関係しているのかもまだわからない。たくさんの未解決問題が存在する。
 
(1)プリン減勢酵素(CD39.CD73)は鍼の効果に影響するのか?
(2)P2レセプター受容体のどれが最も鍼にとって重要なのか?
(3)P2/Yレセプター受容体は他の鍼の効果を構成するトランスミッター・レセプターと相互に影響し合うのか?
 
 
 
鍼におけるプリン作動性システムやアデノシン鎮痛について「何も知らない」ことを認めつつ、「何が分からないのか」をオープン・クエスチョンで問いかける論文であり、読んでいて感動しました。これこそが最先端だと思います。この謙虚さこそが本来の学問です。
 
私にとっては、自分が行なっている鍼治療法を説明するものであり、この知識を応用することで自分の臨床におけるブレークスルーがをもたらされました。浅い鍼による皮膚や皮下組織の歪みが鍼の効果をもたらします。1970年台の鍼麻酔、エンドルフィン・システムの発見以来のパラダイム・シフトだと思います。
 
 
 

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