中国の新鍼灸流派

2018年「現代鍼灸臨床新学派の背景と前景の展望」
现代针灸临床新学派背景与前景透视
张树剑
《南京中医药大学学报(社会科学版)》 2018年04期
http://www.cnki.com.cn/Article/CJFDTOTAL-NJZD201804001.htm
(インターネット上にオープンアクセスPDFファイルあり)


この論文は本音で書かれているので面白かったです。
まず、現代中国の新しい鍼灸流派として西洋医学的解剖学派の朱漢章先生の 小針刀、西洋医学のドライニードリングとトリガーポイント、符仲華先生の浮鍼療法の3つを取り上げています。さらに、マイクロ鍼灸として朱明清先生の朱氏頭皮鍼、焦順発先生の焦氏頭皮鍼、方雲鵬先生の方氏頭皮鍼が挙げられ、張穎清先生の第2掌骨側鍼法が生物学的ホログラフィー理論として取り上げられています。

現代中国の論文を調べていると、弁証論治による鍼灸は超少数派になっており、中国では小針刀やトリガーポイント・ドライニードリングなどの西洋医学的な鍼とマイクロ鍼灸が隆盛を迎えている印象があります。その原因が分析されています。

以下、引用。

【3.新学派の生まれた背景と原因】

【3.1鍼灸教育の硬直と学科の保守化】
(解剖学派鍼灸やマイクロ鍼灸学派などの)鍼灸の新学派が生まれて反映するのは現代の鍼灸教育の失敗のためであり、背景の原因として鍼灸学科それ自体の保守化と硬直化に原因がある。

身も蓋もない本音とはこのことです。

以下、引用。

現代となっても鍼灸界は中医学の特色を強調しており、このように鍼灸教育は壁を突破できずにいて、伝統的な中医学理論の枠の中にいる。従って、新発展があっても軟部組織理論や外科理論、筋膜学の理論などは主流の鍼灸理論体系から除外されている。この場合の主流とは教科書の主流であり、教科書の鍼灸理論システムを意味する。教科書派の鍼灸が新しい理論からの挑戦を受けた時に今までの主流の地位を保つことができるかどうかは予測が困難である。

私自身がトリガーポイント・ドライニードリングとマイクロ鍼灸を得意にしているので、読んでいてヒリヒリしました。新しい軟部組織・筋膜理論についていっていないのは、日本の西洋医学派の鍼灸も同じだと思います。2018年、ついにこのような論文が中国でも出てきたかと感じました。

一方で、中国中医研究院针灸研究所の黄龍祥先生や譚源生先生、南京の張建斌先生など中国の古典派の研究や日本の古典研究者の先生方の研究を読んでいると、逆に今ぐらい面白い時代はないと思います。1950年代にクリエイトされた弁証論治には歴史的意義があったとしか思えません。中国語の教科書派鍼灸を越えたところにこそ醍醐味があり、この最先端の面白さに気づいている人が少ないことが惜しいです。

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