鬱証と腎:うつを腎から治療する

2015年「『鬱証』を腎から論治する』ことの研究」
探讨“郁证从肾论治”
罗卡 常学辉
《中国中医基础医学杂志》 2015年02期
http://www.cnki.com.cn/Article/CJFDTOTAL-ZYJC201502013.htm

腎は志を蔵し、腎の志は恐れであり、恐れれば気下るというのが腎による鬱証治療の理論的根拠であり、腎虚は鬱証の発病に重要な関わりがある。


もともと鬱証は木鬱、火鬱、土鬱、金鬱、水鬱の五鬱が『黄帝内経素問・六元正紀大論篇』にあります。

《素问·六元正纪大论》:“木郁达之,火郁发之,土郁夺之,金郁泄之,水郁折之。

補腎の要素を入れると改善するうつは腎鬱と勝手に呼んでいたのですが、明代の孫一奎先生が『赤水玄珠』ですでに 「腎鬱」という言葉を使われていました。中国のデータベースで「腎鬱」を検索したら山ほど論文が出てきました。

1996年「腎鬱論」
肾郁论
唐学游 熊慧玲 唐罡
《辽宁中医杂志》 1996年11期
http://www.cnki.com.cn/Article/CJFDTOTAL-LNZY611.004.htm

1998年「腎鬱証のエピソード」
肾郁证治琐谈
王建康 《北京中医》 1998年01期
http://www.cnki.com.cn/Article/CJFDTOTAL-BJZO801.014.htm

2001年「腎鬱証の実例」
肾郁证治举隅
刘长庚 《山东中医杂志》 2001年08期
http://www.cnki.com.cn/Article/CJFDTOTAL-SDZY200108038.htm

2005年「水鬱の研究」
“水郁”探析
李万斌 《江苏中医药》 2005年04期
http://www.cnki.com.cn/Article/CJFDTOTAL-JSZY200504003.htm

2007年「抑うつ症を腎から論治する」
浅谈抑郁症从肾论治
雷英菊 刘菊妍 梁喆盈
《四川中医》 2007年08期
http://www.cnki.com.cn/Article/CJFDTOTAL-SCZY200708013.htm

腎は五神(魂・神・意・魄・志)の志を蔵し、恐れは腎を傷つけます。補腎によって改善するうつのタイプはあると感じています。

「腎鬱=水鬱」には「通陽して利水する」という治則なら督脈の通陽と足太陽膀胱経の利水になると思いますが、鬱で陽気不足・陽気不通で首から肩から腰までダル痛い、鬱っぽい人の治療が腎鬱の鍼灸治療になると考えています。

歴史的には、モンゴル帝国・元代の朱丹渓著『丹渓心法』では六鬱があり、気欝、血欝、湿欝、熱欝、痰鬱、食鬱の分類があります。「およそ鬱はみな中焦にある」「鬱は集まって発散できないものをいう。昇るものが昇らなかったり、降りるものが降りなかったり、変化すべきものが変化しないと伝化が失常して六鬱となる」というのが金元四大家、朱丹渓先生の鬱証です。

明代、王肯堂著、『証治准縄』では、六鬱に対して見事な解説が読めます。

《证治准绳·杂病》郁
http://zhongyibaodian.com/zhengzhizhunshengzab…/571-8-2.html
木郁达之,达者、通畅之也。如肝性急,怒气逆, 胁或胀,火时上炎,治以苦寒辛散而不愈者,则用升发之药,加以厥阴报使而从治之。

明代、張介賓著『景岳全書』では怒鬱、思鬱、憂鬱という情志三鬱が記述されました。
http://www.zysj.com.cn/lilunsh…/jingyuequanshu/124-25-4.html

明代、李用粹著『証治匯補』には「七情鬱証」 という表現があります。ユニークなのは、鬱証には沈脈が多く、あるいは結脈・あるいは促脈や代脈が多いと書かれて、弦脈ではないことです。

【脉法】郁脉多沉.在上见于寸.在中见于关.在下见于尺.又郁脉或结或促或代
http://www.zysj.com.cn/lilunshuji/zhengzhihuibu/636-8-7.html

清代、張璐著『張氏医通』の「鬱( 郁 )」の記載は深みがあります。特に梅核気の記述が素晴らしいです。

金匮云。妇人咽中如有炙脔。半夏浓朴汤主之。上焦。阳也。卫气所治。贵通利而恶闭郁。郁则津液不行而积为痰涎。胆以咽为使。胆主决断。气属相火。遇七情至而不决。则火郁而不发。火郁则焰不达。焰不达则气如焰。与痰涎聚结胸中。故若炙脔。
《张氏医通》郁
http://zhongyibaodian.com/zhangshiyitong/495-9-2.html

清代、何夢瑶著『医碥』では六鬱に対して見事な解説があります。

《医碥》郁
http://zhongyibaodian.com/yibian/603-9-20.html
木郁者,肝气不舒也。达取通畅之义,但可以致其通畅,不特升提以上达之。
郁而不舒则皆肝木之病矣。

清代、 林佩琴著『類証治裁』では「思・憂・悲・驚・怒・恐の鬱は気血を傷つける」「七情は内で鬱を起こす」と論じています。怒鬱、思鬱、憂鬱に加えて、恐鬱に八味丸、悲鬱に甘麦大棗湯、驚鬱に温胆湯などの処方を記載しています。

他にも五臓鬱として肝鬱・心鬱・脾鬱・肺欝・腎鬱と胆欝・三焦鬱という概念があり、現在は西洋医学のうつに対応する機会が増えており、この機会に腎鬱以外にも七情や五志との関連で研究したいと思います。「鬱証=肝気鬱結」という固定観念から離れてみた鬱証の歴史は広く、深いです。

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