鍼と結核マイコバクテリウム・ツベルクローシス感染

2014年12月『国際感染症雑誌』掲載の論文
「2012年中国浙江省のプライベートクリニックにおける鍼による結核感染アウトブレイク」
An outbreak of Mycobacterium tuberculosis infection associated with acupuncture in a private clinic of Zhejiang Province, China, 2012
International Journal of Infectious Diseases
Volume 29, December 2014, Pages 287–291

2014年6月30日、「Acupuncture Can Spread Tuberculosis, Researchers Warn(鍼は結核を感染拡大させると研究者は警告している)」という記事が載りました。これは中国の浙江省温州市で7名確定、23名疑い例で合計30名の鍼治療による結核感染症例がオープンアクセスジャーナル『プロスワン』に報告されたことを報道したものです。

Analysis of 30 Patients with Acupuncture-Induced Primary Inoculation Tuberculosis
PLOS ONE
Published: June 24, 2014
http://www.plosone.org/…/info:…/10.1371/journal.pone.0100377
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4069069/

さらに中国の研究チームがこのクリニックで実際に行われていた消毒方法や個々の患者の分析を行った結果がこの2014年12月発表の論文です。

以下、引用。

【(感染症を起こしたクリニックの)鍼の手順】
75パーセントアルコールで皮膚を清拭した後、干渉波が2~4ポイントに20~30分行われた。鍼した部分は抜鍼後に75パーセントアルコールで清拭された。(糖質コルチコイド製剤である)酢酸トリアムシノロンが1~2点に注射された。最後に理学療法が患者のニーズに応じて15-20分行われた。この理学療法は全ての患者が受けたのではない。

論文は多変量解析によって感染原因の特定を行おうとしましたが、原因を科学的に確定することはできませんでした。しかし、結核感染を起こした箇所の75パーセントが鍼を挿入した部分です。そしておそらく原因は以下です。

高圧蒸気消毒器(=オートクレーブ)と紫外線ランプがそのクリニックでは鍼の殺菌に十分に働いていなかった。

中華人民共和国における感染防御の技術基準(2002年版)によれば、鍼は高圧蒸気で滅菌しなければならない。クリニックの管理者は小さなポータブル蒸気消毒器を使って鍼を消毒しており、この情報は記録されていた。

単回使い捨てディスポーザブル鍼ではなく、鍼を高圧蒸気滅菌消毒器(オートクレーブ)で消毒する方法は高圧蒸気滅菌消毒器の調子が悪いと消毒が不十分になる危険性があります。やはり、日本の鍼灸院で現在行われているような単回使い捨てディスポーザブル鍼を使用すべきです。

 

結論は以下。

われわれは、使い捨て鍼、皮膚消毒手順、無菌技術を含む感染コントロール基準が履行されることを推薦する。付け加えるに、鍼による感染を防ぐために、より厳格なレギュレーションと鍼の感染防御が導入されている場所の認証が必要とされる。

日本では、法律で鍼灸院の開業の際に高圧蒸気滅菌消毒器(オートクレーブ)などの適切な消毒器具を置いているかどうかなど、都道府県知事より委任された職員による検査があり、消毒設備がない場合は鍼灸院を開業できません。

また、厚生労働省よりディスポーザブル鍼を使うように通達があり、ほとんどの鍼灸院が単回使い捨てディスポーザブル鍼を使用しています。だから、この論文の結論で提案されているような感染防御手順と治療所の認証手順は既に実施されており、中国で起こったような鍼による結核感染は日本では起こる確率はほとんどありません。

中国では鍼による結核菌感染アウトブレイクが、韓国では鍼による非結核性抗酸菌感染アウトブレイクが起こっています。中医師や韓医師はこれらの感染アウトブレイクを起こしていますが、日本の鍼灸師は感染アウトブレイクを起こしていません。ただ、現在の日本人鍼灸師および鍼灸学校の学生の倫理観の低下を観察している限りでは、いつまでこの状況が続くのかは疑問があります。

中医師や韓医師の鍼の知識・技術レベルや倫理観の低下という事実を他山の石として謙虚に受け止めてこれらの事例を研究しなければ、日本の鍼灸師の知識技術レベルも同じような惨状になるかも知れません。

例えば、単回使い捨てディスポーザル鍼を使用していても、プラスティックの使い捨てシャーレのみを使い、この使い捨てシャーレが汚染されたら同じことが起こります。高圧蒸気滅菌消毒器(オートクレーブ)で滅菌した金属シャーレを使用していれば起こりません。以上は、この事件から汲み取れる教訓だと思います。

中国による、もっとも詳細な調査は以下のオープンアクセス論文で存在します。

2015年「鍼経穴刺鍼による肺外の結核感染アウトブレイク」
Outbreak of extrapulmonary tuberculosis infection associated with acupuncture point injection
Z. Jia et al.
Clinical Microbiology of Infection
April 2015Volume 21, Issue 4, Pages 349–353
https://www.clinicalmicrobiologyandinfection.com/…/S1198-74…

 
 
 
 

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