耳介迷走神経刺激の解剖学的基礎

2019年11月19日『ジャーナル・オブ・アナトミー(解剖学雑誌)』
「耳介迷走神経刺激の解剖学的基礎」
The anatomical basis for transcutaneous auricular vagus nerve stimulation
Mohsin F. Butt Ahmed Albusoda Adam D. Farmer Qasim Aziz
Journal of Anatomy
First published: 19 November 2019 https://doi.org/10.1111/joa.13122
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31742681
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/joa.13122


この論文では、耳鍼療法について耳介迷走神経刺激の角度から論じられています。
2000年代から2010年代に西洋医学で耳介迷走神経刺激の研究が飛躍的に発達しました。フリードリヒ・アーノルドが1831年に「アーノルド神経咳反射」を発見し、耳介への迷走神経分布が確認されました。

歴史的には、2000年にカナダの医学者、ヴェンチュレイラが耳介経皮性迷走神経刺激によるてんかん治療を提唱しました。

2000年「てんかん治療のための経皮的迷走神経刺激:新しいコンセプト」
Transcutaneous vagus nerve stimulation for partial onset seizure therapy. A new concept.
Ventureyra EC1.
Childs Nerv Syst. 2000 Feb;16(2):101-2.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/10663816

耳介迷走神経刺激は心房細動、うつ病、糖尿病、エンドトキシン内毒素症、高齢者の記憶改善、心筋梗塞、耳鳴、脳梗塞が研究されています。

耳介への迷走神経は、この論文では死体研究が詳細にレビューされています。なんと外耳道がもっとも確実に迷走神経を刺激する方法のようです。耳珠などは議論があります。この部分は西洋医学的に面白いです。

次に、耳甲介舟や耳珠を刺激してのfMRI研究が面白いです。ストレスや疼痛と関連する青斑核、恐怖や記憶と関連する扁桃、快楽中枢である側坐核とうつ病や精神病と関連する部分が耳介迷走神経刺激で影響を受けているのがfMRIで観察されます。

以下、引用。

孤束核は間接的あるいは直接的に脳の部位、うつの病理に影響を与える扁桃、側坐核とネットワークを持つ。そして、ここに耳介経皮性迷走神経刺激がウツ症状のマネージメントに使われることの基礎が存在する。

耳介経皮性迷走神経刺激は恐怖や不安、ネガティブ思考に対して研究が増えています。それは青斑核、側坐核、扁桃と関連しているかもしれません。

2019年1月30日「経皮性迷走神経刺激は自発的なネガティブ思考を減少させる」
Transcutaneous vagus nerve stimulation reduces spontaneous but not induced negative thought intrusions in high worriers.
Burger AM,et al.
Biol Psychol. 2019 Mar;142:80-89. doi: 10.1016/j.biopsycho.2019.01.014. Epub 2019 Jan 30.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30710565

2019年5月「経皮性迷走神経刺激と恐怖とその後の恐怖の消滅」
The effect of transcutaneous vagus nerve stimulation on fear generalization and subsequent fear extinction.
Burger AM,et al.
Neurobiol Learn Mem. 2019 May;161:192-201.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30986531

また、耳介迷走神経刺激は炎症にも使われています。

2015年「(耳介迷走神経)生体電気刺激は炎症性腸疾患の炎症を減少する」
Bioelectrical Stimulation for the Reduction of Inflammation in Inflammatory Bowel Disease.
Marshall R et al.
Clin Med Insights Gastroenterol. 2015 Dec 6;8:55-9. doi: 10.4137/CGast.S31779. eCollection 2015.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26692766

耳介の迷走神経の解剖学的分布の根拠を明らかにしつつ、機序を現時点で整理してみせた良質のレビュー研究だと思いました。

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