中国の伝統医学政策

2021年3月30日
『第14次五か年計画の期間、中医薬は主要プロジェクトの予算を倍増する』
“十四五”期间 中医药重大工程投入将翻一番

巨大な中医学古典収集出版プロジェクトである『中華医蔵』など中医古典の文献調査を推進するというのは素直にうれしいです。習近平主席は、清代の乾隆帝の『四庫全書』のように後世に業績を残す気なのでしょうか。10~20の国家中医臨床医学研究センターを建設するというのも、東洋医学全体の発展のためにはプラスになると思います。

日本経済新聞に以下の記事が載りました。

2021年3月29日『日本経済新聞』
『米「習近平の排除を」 匿名の元高官論文の波紋』https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN253360V20C21A3000000/

ソ連の「封じ込め政策」のもとになったジョージ・ケナンの『長文電報』『X論文』のような匿名の秘密の戦略論文が掲載されたというニュースです。

THE LONGER TELEGRAM
Toward a new American China strategy
https://www.atlanticcouncil.org/…/atla…/the-longer-telegram/

米中冷戦が深まる中、「中国共産党を非難して体制転換をせまるのはかえって中国共産党の結束を強めてしまい、アメリカの国益に反する。習近平個人を排除することに戦略を転換すべきである」というのが論文の論旨です。

2008年のリーマンショック以降、世界は激変しました。1945-1991年の米ソ冷戦時代は二極による世界支配システムでした。

1991年冷戦終結後はアメリカの一極世界支配システムとなりました。

2001年の9.11アメリカ同時多発テロ事件で世界は変わります。アメリカは同年アフガニスタン戦争、次いで2003年にイラク戦争を起こし、国力を低下させます。

2008年リーマンショック以降は多極化システムに移行します。

2009年にはブラジル・ロシア・インド・中国がBRIC会議を開き、2014年にはBRICs銀行が発足しています。

2012年に習近平が国家主席となりました。2014年にはエイペック・アジア太平洋経済協力会議で中国政府が「一帯一路」を提唱します。

2016年、アメリカではトランプ政権が発足し、イギリスはEU離脱を決定します。

2017年、中国で中医薬法が成立し、一帯一路の思想から世界中で中医学センターが設立されました。2019年にはWHOの国際疾病分類‘ICDー11’に中医学の概念が入りました。

2019年、アメリカと中国が「新冷戦」の状態となります。2020年には新型コロナウイルス・パンデミックの中で、習近平主席は武漢での中医薬を使った防疫システムを強く政治的にうちだしました。2021年も習近平政権はさらに中医薬に前のめりとなっています。これは中国でのナショナリズム・愛国主義の高まりと呼応していると思われます。

個人的に思うのは、現在の中医学は習近平主席と政治的に密着しすぎているという印象です。中国の歴史を俯瞰的にみると、一時的に政治と密着してブームが起こっても、次の時代に反動がきたとき、ものすごいマイナスとなります。

現在の欧米では、アジア系民族への差別感情がかつての黄禍論ブーム以来の高まりをみせています。「月は満ちれば欠ける」という易経的な考え方からすれば、現在はあまりに傲慢すぎ、歴史の文脈からは転落のリスクが高まっている印象があります。

中医学の陰陽の部分、「良い面」と「悪い面」を整理して、良い部分、歴史的な業績の部分はとりいれるべきです。日本伝統医学は中国伝統医学と異なる戦略を採用し、歴史的なとも倒れを避けて、東洋医学の本質の部分を後世に遺す歴史的責任があると感じました。

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