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アメリカ鍼灸の社会学・科学史・歴史学

 

2021年4月7日『アメリカ公衆衛生学雑誌』
「鍼のラディカルな根っこと政治派閥」
Acupuncture’s Radical Roots and Political Branches
Susan M. Reverby(スーザン・M・リーバービー)
American Journal of Public Health 111(5), pp. 760–761
Published Online: April 07, 2021
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33826396/
https://ajph.aphapublications.org/…/10.2105/AJPH.2021.306199

 

スーザン・M・リーバービー先生はウェルズリー大学の女性学とジェンダーの教授であり、ハーバード大学アフリカ系アメリカ人センターの教授というアメリカ現代社会学・歴史学の伝説的人物です。主要な業績はアメリカの白人医師たちが黒人を梅毒の人体実験に使ったタスキギー梅毒・人体実験とグアテマラ梅毒・人体実験について調査研究して実態を暴露したことです。日本の野口英世も、孤児や健康な子どもで梅毒人体実験したことは日本国内ではまったく報道されませんが、海外では有名です。

 

2014年『シンガポール医学ジャーナル』
「野口英世(1876-1928):卓越した細菌学者」
Hideyo Noguchi (1876-1928): Distinguished bacteriologist
Siang Yong Tan, et al.
Singapore Med J. 2014 Oct; 55(10): 550–551.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4293967/

 

実験で野口英世はルテインだと称して梅毒のエキスを被験者の上腕に注射した。肌の反応が研究され、健康被験者と梅毒患者が各ステージによって分けられた。被験者の571人のうち315人が梅毒の保菌者で、残りはコントロールであり、コントロールは梅毒をもっていない孤児や病院の患者であった。

 

1932年から1972年までアラバマ州タスキギーでタスキギー梅毒・人体実験をアメリカ政府・アメリカ国立衛生研究所NIHが行いました。文盲の貧しい黒人男性399人に梅毒を接種し、28人が直接梅毒によって亡くなり、100人が梅毒に関連する合併症で亡くなりました。40人の患者の妻は夫から感染し、19人の子供が先天性梅毒になって生まれました。そして、実験開始15年後の1947年にはペニシリンの大量生産によりこれらの梅毒になった黒人男性を治療するのは可能でしたが放置し続け、亡くなった黒人男性を解剖しました。内部告発によって、1972年に急遽、人体実験は中止となり、1997年にクリントン大統領が遺族に謝罪しました。

 

グアテマラ梅毒・人体実験事件は日本ではまったく報道されていません。1946年から1948年にかけて、アメリカ国立衛生研究所NIHがグアテマラで売春婦・精神科病院の患者・孤児・刑務所の受刑者に梅毒を感染させる人体実験を行いました。1300人が感染させられ、83人が死亡しました。オバマ大統領は2010年10月にグアテマラ政府にこの事件を謝罪しています。

 

この暗黒の医学史・科学史を暴いたのがウェルズリー大学のスーザン・M・リーバービー先生です。スーザン・M・リーバービー先生が「女性学ジェンダー学教授」をつとめる名門ウェルズリー大学のミッションは「世の中に変化をもたらす女性に優れたリベラルアーツ教育をもたらすこと」です。

 

アメリカ現代史を研究している人間には伝説的人物のスーザン・M・リーバービー先生が『アメリカ衛生学雑誌』に「鍼のラディカルな根っこと政治派閥」という論文を書くのは事件です。スーザン・M・リーバービー先生は現在、HIV/AIDSの治療を劇的に変えた医師のアラン・バークマンの生涯を研究しています。アラン・バークマン医師は黒人解放運動ブラックパンサーや耳鍼のNADAプロトコルとも関わりをもっており、その関連なのかも知れません。

 

スーザン・M・リーバービー著

Co-conspirator for Justice: The Revolutionary Life of Dr. Alan Berkman (Justice, Power, and Politics) (English Edition)
『正義のための共謀者:ドクター・アラン・バークマンの革命人生(正義・権力・政治)』
The University of North Carolina Press (2020/4/16)

 

 

最近、ハーバード大学の若き科学史・医学史の女性研究者であるイアナ・メン先生の論文を読みました。

 

2018年
「ペイシェント・イン・ペイン:オピオイド蔓延における鍼アキュパンクチャーの勃興」
Patients in Pain: The Rise of Acupuncture in the Opioid Epidemic
Eana Meng
https://projects.iq.harvard.edu/historyopioidepidemic/meng

 

2002年に鍼師、リサ・ローレダー先生が始めたコミュニティー・アキュパンクチャー運動が200ヵ国に拡がっていること、耳鍼のNADAプロトコルとブラックパンサー黒人解放運動の歴史などが書かれています。「鍼灸のアメリカ史」「鍼灸の科学史」を研究する若き女性研究者の誕生です。鍼灸の歴史をおいかけることで、新しい女性研究者たちがつむぎだす、いままでになかった新しい歴史学・社会学の誕生をみることができました。世界はものすごく、広く、深いです。

 

 

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