食行動症および摂食症群

2021年5月10日『Mainich』
「2020年の日本の10代の子どもたちは、記録的な数が摂食障害のコンサルテーションを受けた」
Japan sees record-high eating disorder consultations from teens in FY2020

以下、引用。

毎日新聞によれば、2020年度に全国の政府支援センターに摂食障害のアドバイスを求めた10歳から19歳までの子どもたちが過去3年間で約1.8倍に増えた。推定によれば、患者の約10%は栄養失調や低カリウム血症などの合併症を発症した後、または自殺のために死亡している。

日本において1980年代から摂食障害は増え始め、1980年と2000年を比較すると、約10倍!に増えているそうです。コロナ禍ではさらに増えていることが報告されています。

摂食障害は難治であり、現代医学では治療法が確立されていません。そして、あらゆる精神疾患の中でも最も死亡率が高く、患者は若い女性であることが多いため、治療に関わる医療関係者も予後不良の場合、深刻な精神的ダメージを受けやすいです。軽々に扱えない疾患です。

ICD11では「食行動症および摂食症群」という新しい訳語が提案されています。

8.1「神経性やせ症」=旧・神経性食思不振症
8.2「神経性過食症」=神経性大食症
8.3「むちゃ食い症」
8.4「回避・制限性食物摂取症」
8.5「異食症」
8.6「反芻・吐き戻し症」

漢方の分野では、以下の神経性食欲不振症にグレリンを分泌する六君子湯を使った論文が面白いです。

1995年
「神経性食欲不振症の治療初期段階での六君子湯の使用経験」
松林 直 et al.
『心身医学』1995 年 35 巻 6 号 p. 519-524
(オープンアクセス)

「六君子湯で体重増加が見られた症例は治療終結に至っている」ことから、六君子湯による消化器症状や精神症状の改善よりも「認知の歪みの改善」が重要と論じられています。単に食欲を出したり、体重が増えても、それは治癒ではないのです。この論文は治療論として深いと感じました。

そして「神経性食欲不振症患者の治療では、治療初期における治療同盟の形成が重要である」と論じられています。これも参考になります。

鍼の分野では、以下の論文が感動的でした。

2013年オーストラリア西シドニー大学
「神経性やせ症の患者への鍼と指圧:患者の視点からのセラピューティック・エンカウンター」
Patients with anorexia nervosa receiving acupuncture or acupressure; their view of the therapeutic encounter
SarahFogarty et al.
Complementary Therapies in Medicine
Volume 21, Issue 6, December 2013, Pages 675-681
https://www.sciencedirect.com/…/pii/S0965229913001374…

以下、引用。

わたしが治療された方法(鍼と指圧)は、わたしに人間としての価値を感じさせてくれて、わたしのネガティブで自己否定な信念を変えようとしてくれた(エリザベス・偽名)。

わたしを評価するのではなく、耳を傾けてくれて、話を聞いてくれて、共感してくれて、正直でいてくれる鍼と指圧のプラクティショナーと話すのは素敵なことだった(ヴィクトリアとキャサリン偽名)。

神経性やせ症の患者と医療従事者、医師との関係はしばしば複雑で難しいものになる。

この研究でみられた鍼と指圧の治療者と神経性やせ症患者との間の強力な治療関係は、神経性やせ症患者にとって非常に効果的なヒーリング追補療法となるかも知れない。

 
鍼灸師や指圧師は、どの社会でも医療従事者と思われていませんが、まさにそこが私たちの強みです。鍼灸師は患者さんをジャッジすることなく、黙って患者さんの身体のエネルギーの状態を治療し、患者さんの身体をポジティブな方向に変化させようとします。その結果として、神経性やせ症患者の患者さんたちと意図しない強力な関係を築きました。

これこそ日本の鍼灸師の先生方が臨床でやっていることだと感じました。言葉で心を治すのではなく、脈診や腹診の状態を改善したり、痛みを取ったり、眠れるようにしたり、身体の愁訴を取ることに集中します。心を治すのは西洋医学の先生に任せ、触診から身体の声を聞いて、身体の状態を変化させることに専念します。

正面玄関から入って、応接間で、決められた時間、精神療法をするのではなく、鍼灸マッサージ指圧師は堅く閉ざされた要塞のような家(ココロ)に、「身体」という勝手口から入り、キッチンで患者さんと無言でお茶を飲んでリラックスした時間を共に過ごすことを繰り返すのです。

知識・技術から「治療」するのも重要ですが、鍼灸には「ヒーリング」の側面があります。イルカ・ヒーリング、アニマル・ヒーリング、森林ヒーリング、温泉ヒーリングなど、イルカや動物は無言ですが癒されます。森林や温泉に至っては治そうとする意思どころか心さえありません。脈診や腹診の状態を変えようと集中している鍼灸師はイルカや動物たちのように無言です。「治療」と「ヒーリング」は全く異なる概念だと思います。

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