機能性ディスペプシアと鍼とモチリン

 
 
 
 
2021年7月26日韓国の研究
「機能性ディスペプシアへの付加的治療としての鍼:システマティックレビューとメタアナリシス」
Acupuncture as an Add-On Treatment for Functional Dyspepsia: A Systematic Review and Meta-Analysis
Chan-Young Kwon et al.
Front Med (Lausanne). 2021; 8: 682783.
Published online 2021 Jul 26.
 
 
以下、引用。
 
私たちのレビューは追加治療としての鍼治療に焦点を当てており、鍼治療によるQoL改善のエビデンスが不十分であったことを強調している。さらに現在の調査結果によると、追加治療としての鍼治療は血漿モチリンレベルの有意な増加と関連している。
 
 
個人的な経験では、鍼は機能性ディスペプシアに効果があると感じているのですが、このシステマティックレビューを読んで個人的な違和感の原因が分かりました。ランダム化比較試験では足三里、内関、中かんばかり使っているからです。それだけでは結果が厳しいと臨床家の先生の多くは思うのではないでしょうか。
 
そんなシステマティックレビューでも、読んでヒントになることはありました。鍼治療の効果が出た研究では血清モチリンのレベルが明らかに高かったというのです。
 
 
モチリンは、1971年にカナダのジョン・C・ブラウンが発見しました。
 
 
1972年「モチリン、胃腸の働きを刺激するポリペプチド」
Motilin, a Gastric Motor Activity-Stimulating Polypeptide
John C.Brown et al.
Gastroenterology
Volume 62, Issue 3, March 1972, Pages 401-404
 
 
しかし、モチリンの真の働きを解明したのは、世界の研究者たちにモチリン王と呼ばれた群馬大学医学部の伊藤漸先生です。
 
1974年にモチリンによる空腹期伝播性強収縮(IMC)を世界で初めて発見しました。名著『胃は悩んでいる (岩波新書)』に発見当時の様子が書かれています。
 

 
 
モチリンは胃、十二指腸、空腸、回腸でレセプターが発見されていますが、主に十二指腸で分泌されます。空腹時にお腹がグーっと鳴るのはモチリンが分泌され、胃→十二指腸→空腸→回腸と強い蠕動運動が伝わり、収縮運動によりお腹の中が掃除されているからです。これを「お掃除収縮」と言い、未消化の食物カスや消化液は肛門側へと送り出されます。1日の中で空腹時間をつくることと、夜間に出来るだけ胃を空っぽにした方が、このお掃除収縮が起こりやすくなります。
 
 
伊藤漸先生の門下、群馬大学医学部の草野元康教授は足三里に刺鍼することで血清モチリン値が上昇し、血清モチリン値の低下したFD患者さんの治療の可能性を論じられています。
 
 
2012年
「鍼の足三里(ST36)刺激による機能性胃腸症(FD)治療の可能性」
『日本消化器病学会雑誌』109 号A867
2012年09月15日
 
 
2012年に鍼とモチリンの関係が報告されましたが、日本ではモチリン研究で先駆的な役割を果たしながら、それらの知見は活かされていない印象があります。
 
 
 

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