腰痛は「怒り」だけでなく、経済的要素が強い

2019年「慢性疼痛の神経特性にもとづく機能結合の同定」
Identification of traits and functional connectivity-based neurotraits of chronic pain.
Vachon-Presseau E et al.
PLoS Biol. 2019 Aug 20;17(8):e3000349.
doi: 10.1371/journal.pbio.3000349. eCollection 2019 Aug.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6701751/


2017年に米国内科医師会が発表した腰痛のガイドラインは「生物=心理=社会的モデル」に基づき、鍼を推奨していました。

心身症の要素をもつ慢性疼痛は、病気の種類によって心理的特性があるという研究が最近、増えている印象があります。

以前、石原克己先生が「むしろ怒りは頭痛が多く、腰痛は経済的不安のほうが多い」と講義された際に、ちょうど経済的不安からの心因性腰痛・座骨神経痛と思われる患者さんを経験していたため、ハッとしたことがあります。

西洋医学の最新研究でも、慢性疼痛、とくに腰痛は社会経済的ステータスと関連があります。

以下、引用。

多くの研究が筋骨格系疼痛、神経因性疼痛、潰瘍、座骨神経痛はヨーロッパと北米において社会経済的ステータスと関連があると示している。

しかも、その効果は精神的要素だけに限定されない。収入は神経的特徴とポジティブにもネガティブにも関連している。社会経済的ステータスと慢性疼痛の個人の精神医学と神経生理学にもとづいたリンクの存在を示している。

表6のように、収入は疼痛特性と感情特性とリンクしており、低い収入は高い不安と破局化と関連しており、高い収入は高い楽天主義と関連している。

【慢性疼痛の神経特性】
われわれは、(慢性疼痛患者の)疼痛特性や感情特性は脳の機能的結合パターンによって決定されることを示した。

慢性疼痛患者の脳の機能的結合ネットワークは、前頭前野とデフォルト・モード・ネットワークを含み、特に神経特性1は慢性疼痛と破局化の場所である。

たとえば、いくつかの研究ではデフォルト・モード・ネットワークが破局化と関連して疼痛の深刻さを決定することが示されており、報酬/罰と関連する中脳辺縁系は痛みの知覚を調節し、慢性的な痛みへの移行のリスクを決定する

脳における前頭前野やデフォルト・モード・ネットワークは、心理における破局化と関連しています。

ドーパミン経路である中脳辺縁系も前頭前野もデフォルト・モード・ネットワークもすべて鍼が脳に作用する場所です。

以下、引用。

したがって、われわれは疼痛特性(破局化、不安、受容)といった精神医学的要素が脆弱性または保護性を決定し、感情特性(神経症的性格、喪失の感覚、楽観性、思いやり)が耐久性を決定することを示した。

この論文は、画期的です。

腰痛の生物=心理=社会的モデルは脳のレベルでは前頭前野とデフォルト・モード・ネットワークであり、心理のレベルでは破局化(破局的思考)であり、社会のレベルでは収入からの不安や恐怖の領域の活性化となります。

鍼灸は脳のレベルを変化させ、困難を克服するレジリエンスを強化するようです。おそらく、コロナ時代にもっとも必要な医療だと思います。

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