人工膝関節置換術中の鍼治療が術後の疼痛を緩和

 
 
以下、引用。
 
人工膝関節置換術(TKA)を受けた患者では、術後に強い痛みが生じ、オピオイド系鎮痛薬(以下、オピオイド)の処方を希望する患者が少なくない。
 
しかし米国では、このようなオピオイドの処方をきっかけにオピオイド依存症になる人が多く、深刻な問題となっている。
 
こうした中、術中に耳介への鍼通電療法を行うことで痛みが軽減され、オピオイド依存症リスクの低下にもつながる可能性のあることを示した研究結果が明らかになった。
 
この研究は、米ワイルコーネル医科大学麻酔学分野のStephanie Cheng氏らが実施したもので、結果は米国麻酔科学会議(ASA 2021、10月8~12日、米サンディエゴ)で発表された。
 
鍼治療による刺激は、幸福感をもたらす脳内の神経伝達物質であるエンドルフィン(脳内麻薬とも呼ばれる)の放出を促し、痛みを緩和すると考えられている。
 
Cheng氏らの研究では、TKAを受ける41人の患者に対し、術中に標準的な麻酔プロトコルに加え、鍼通電療法を実施した。
 
この鍼治療は、手術中に、耳の8カ所のツボに刺した細い針に弱い電流を流すというものだった。
 
その結果、鍼通電療法を受けた患者では、術後30日間にわたって低用量のオピオイド(15錠以下)服用で済んだ患者の割合が65%(26人)に上り、このうちの3人はオピオイドをいっさい服用することがなかった。
 
これに対して通常は、TKAを受けた患者で術後に使用するオピオイドの量が同程度まで抑えられる割合は、わずか9%に過ぎないという。
 
Cheng氏は、「オピオイド依存症の蔓延については、ここ何年にもわたってニュースで報じられ、われわれの懸念材料となってきた。
 
そのため、術後の痛みに対してオピオイド投与に代わる治療法を探し出すことが急務だった。今回の研究で、鍼治療が魅力的な選択肢となり得ることが分かった」と説明する。
 
なお、Cheng氏らは現在、膝以外の人工関節置換術を受ける患者に対しても鍼通電療法の検討を行っているという。
 
同氏は、「痛みの緩和に鍼治療を試してみたいか患者に尋ねたところ、誰もが興味を示した。もし興味があるなら、手術担当の外科医に、訓練を受けた鍼医学の専門家との連携が可能かどうか相談してみるといいだろう」と助言している。
 
今回の報告を受け、米クリーブランド・クリニックの整形外科医であるNicolas Piuzzi氏は、「われわれは、オピオイドの乱用や誤用という重大な健康上の問題を抱えている。
 
そのため、この問題の解消につながる可能性があるのなら、どんな方法でも歓迎すべきだ」と研究結果を前向きに受け止めている。
 
ただし、「術中の鍼治療を標準治療として行えるようにするには、さらなる研究が必要だ」と同氏は指摘。「鍼治療によって得られる時間やコスト、リソースの面での付加価値を、オピオイド使用量の減少につなげることのできた他のアプローチとの比較で評価する必要がある」と述べている。
 
Piuzzi氏は、人工関節置換術を受ける患者のほとんどで、術中に局所神経ブロックなどを含めた2種類以上の麻酔が行われているのが現状だとし、「こうした現行の麻酔法でも、たいていの場合は手術の翌日に帰宅でき、痛みの程度も耐えられる範囲内であることが多い」と指摘する。
 
ただ、そこまでの効果が得られず、術後に鎮痛薬が必要になるケースもある。その際にオピオイドが使われることもあるが、同氏は、「オピオイドはとても良い鎮痛薬で、適切な期間と量を守ることができるのであれば、果たすべき役割はある」と話している。
 
なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものとみなされる。
 
 
 

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